作家・作詞家として活躍する高橋久美子さんによる暮らしのエッセイ。今回は、自治会の班長をまかされかけた顛末についてつづってくれました。

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第95回「自治会の役員って大変ですか?」

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東京の一軒家に住み始めて驚いたことは、回覧板があることだった。賃貸なのだけれど、多い時は2週間に一回郵便受けに入る。実家の愛媛でも、広報は配布されてもさすがに回覧板は私が小学生くらいでなくなっていた。

防災のこと、地元の小学校の活動、お祭り、街歩きの日程…東京でも「地元」という感覚が持てたのは回覧板による季節のお便りのおかげかもしれない。さほど下町というわけではなく、若い夫婦も多く住むエリアなのだが、サザエさんの世界がまだ残っていたのだった。

●自治の班長の座がなぜか私のところへ…

引っ越して初めて迎えた新年度、ポストに一通のプリントが入っていた。何軒かが1つの班になっていて、その小さな自治の班長を私にやってほしいという自治会の本部からのものだった。主な仕事は、一か月に2回ほど回ってくる回覧板をまわしたり、自治会費を集めて持っていったりという簡単なもののようだ。コロナ中だったので、対面で説明するのを控えたのだろうと思うけれど、紙に書かれた説明ではよくわからなかった。

とりあえず、自治会費を集めるついでにお隣の年齢の近いOさんに聞いてみる。

「あれー、今年高橋さんなんですねー。6軒で順番だから本当ならNさんだけどねえ」

そう言いながら、お金を払ってくれた。私は領収書を書きながら、

「まあ、私がやることになったんで、またいろいろ教えてくださいねー」と言った。

その後、裏のおばあちゃんちも訪ねた。天気のいい日なんかは洗濯を干しながらベランダごしに会話をするような、ご近所さんとはいい関係だった。

「あらー。どうしてあなたがやってるの? 今年はNさんだよー?」

「ええと…本部からやってほしいとのお達しがあったんですよねえ」

「あなたのところと、Oさん(お隣さん)は賃貸だけど、あとはもう40年以上ここにずっと住んでいるの。だから、くるりくるりと6軒が順番に回るっていうルールがあってそれを変えられちゃ困るんだけどねえ」

「はあ…」

「まあ仕方ないかー。ややこしくなっちゃったわねえ」

なんだか、雲行きが怪しくなってきてしまった。私はおばあちゃんに領収書を渡して、Nさんのところへ行った。案の定の反応だった。

回覧板
※写真はイメージです

「ええ? なんで高橋さんがやってるの!?」

「ほ、本部からの…」

「今年は私がやりますから。だってほら、お釣りだって銀行に行って用意してきたし、回覧板用の台紙とかも用意しちゃってるしさ。本部には言っておくから。今年は私にやらせてね」

「はあ。ではお願いします」

「また二年後に高橋さんになっちゃうけど。ごめんね」

「全然だいじょうぶですよ!」

途中まで集めた自治会費と領収書の控えを渡して、家に帰ったのだった。

ようわからんけど、なんのことはない。実家の自治会役員の作業量に比べたらこのくらい容易いものだ。みんな高齢で、ゴミ出しさえしんどくなってきていると聞くので、これくらいなら毎年、私とOさんの代わりばんこでやってもいいよねと話したのだった。

●自治会よりも大切だと思うこと

自治会
※写真はイメージです

実家愛媛では、自治会の権限がとても強いなと感じる。そして細かい。自治会の総会で決まったことは絶対だし、お宮の掃除に、祭やお神輿の段取り、下草刈り、自治会費や他にもいろいろな会費を集めたり毎月の広報を一軒一軒に配ったり、体育部の活動、人集め、その中での人付き合いも大変そうだなあと父や姉夫婦を見ていて思うのだった。

自治会だけでなく、氏子の神社のお世話や、檀家のお寺のお世話、PTAの廃品回収、水路の掃除、他にもいろんな組合に属さねばならなかった。

この10年くらいで、自治会を抜けていく人もちらほら出てきたと聞く。ゴミ当番さえちゃんとしたら、自治会を抜けてもゴミは出してもいい(当然ですよね)ことになっているようだ。

実際、人間関係の煩わしさもあるし、3人の子育て中に姉にとっては役員になったときの大変さはすさまじそうだった。といいながら、ちゃんとやっていたけれど。災害時などは心強いこともあるのかな。ただ、マニュアル通りに繰り返されていく慣習に従うだけの自治会にしばられるよりも、普段からきちんと近所付き合いをすることの方が大切なんじゃないかと思ったりもした。実際に、自治会を抜けたおばちゃんが近所にいるけど、我が家とは仲が良く交流が続いている。

いろいろと時代の分岐点なのかなと思う。自分の頭で考えつつも、ご近所さんとはいい関係でいたいなあ。本当に困ったときは「遠くの身内より近くの近所」とよく母が言っていた。隣近所は、小さな共同体だなと思う。

 

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