「一家団らん」「仲のいい家族」…そうありたいと思っても、身近な存在だからこそ一度こじれると難しいのが「親子の関係」。独立して新しい家族をつくってもなお、実父母との関係に悩まされる人は少なくありません。

ここでは実際にESSE読者が「親ともう縁を切りたい」とまで思った、親子トラブルについて取材しました。

幼少期にネグレクトされた母親に、結婚後もなお振り回された女性

連日のように「お前に育児は無理だ」と母からメールが…(写真はイメージです)
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幼少期、ネグレクトの家庭で育った喜多川真美さん(仮名・30歳)。結婚して家を出てもなお、母親からの支配にとらわれていました。見かねた夫の助言で、3年前に実家と縁を切ることを決意したそうです。

喜多川さんが、親と縁を切るまでの葛藤を語ってくれました。

●幼少期はネグレクトの家庭で育ち、学校でイジメを受ける

私はいわゆるネグレクトの家庭で育ちました。父はアルコール依存症、母は子どもに興味がない人。小さい頃は歯ブラシすら与えられず、学校では「汚い」とずっとイジメを受けていました。

その様子に気がついた近所の大人が、母に何度も忠告してくれたのですが、母は聞く耳をもたず。それどころか、「あんたのせいで、こんなに言われたやろっ」と責められるので、いつのまにか私は、家のことを周囲に隠すようになっていました。何事もなかったかのように、いつも偽りの笑顔を浮かべて…。

高校生の頃体調を崩したときも、看病はしてもらえず、体を引きずるように電車で一人、病院に行ったことを覚えています。親の愛情を感じられることは、ついぞありませんでした。

●優しい夫に出会い結婚。しかし、出産後につらい過去がフラッシュバックしてしまう…

今の夫に出会い結婚が決まったときも、母親は私に否定的で、まるで私が幸せになることが許せないかのようでした。しかし、「夫にこんな家庭環境を知られたらドン引きされる」と思い、結婚後もずっと、母との関係について隠し通しました。

「なんかあったん? 実家に帰った日はいつもムチャクチャ荒れてるけど」と夫に言われたのは、結婚してしばらくたってから。

結婚後、母と毎日電話やメールでやりとりをする私を見て、夫は仲がいい親子だと思っていたようです。でもその内容は「あんたみたいなクズはどうせ捨てられる」などと私を否定するひどいもの。

返信し続けたのは、母が怖かったから。しょっちゅう「帰って来い」と言われ、そのたびに実家に出向き、侮辱され傷ついて自宅に戻る、その繰り返し。私は結婚してもなお、母の支配下にありました。

そして出産後、想像もしていなかったことが起きたのです。子どもの顔を見ていると、つらかった過去がフラッシュバックしてしまう…。
その一方で、母からは連日のように「お前に育児は無理だ」といったメールがきていました。子育てを通して、私はあの子ども時代をもう一度体験しないといけないのか、と感じたとき、もう生きていけないと思いました。

●夫から「それはアダルトチルドレンかもしれない」と言われたことで、自分を客観視できるように

夫に勇気を振り絞って、過去のすべてを話したのはこの頃です。夫はこんな私を受け入れ、「もう実家と縁を切るしかない。お母さんの精神的支配を解こう」と言ってくれました。そう言われて、そうしたくてたまらないのに、どうしてもできない。
そんな私を「アダルトチルドレンかもしれないよ」と夫が指摘。「アダルトチルドレン」という言葉を初めて知り、そのとき初めて、失われた子ども時代にとらわれて動けないでいる自分を客観視することができました。

そして、「こういった理由があるから、“絶縁してもいい!”と自分に言い聞かせては?」と夫に言われたとき、「縁を切る」という言葉が自分の中で確かな決意に変わりました。

●偶然に携帯電話が壊れ…それを機に家も引っ越して「絶縁」

そんな折に、奇跡が起きました。偶然にも私の携帯が壊れて連絡がとれなくなったのです。この幸運を利用しなくては。

私は完全に縁を切ろうと覚悟を決めました。これに合わせて家も引っ越し、実家には住所も教えなかった。弟の結婚式にも行かず、地元の友達との関わりも断ちました。

それから3年、私のなかにはずっと罪悪感があり、悪夢にうなされる日々が続きました。
どうやって住所を調べたのか実家からは長文の手紙がきたり、孫へのプレゼントが届いたり。そのたびに心が揺れ動いてしまう。今もなお母の夢を見るし、完全に乗り越えたわけではないのかもしれません。

でも、夫に守られ、夫の母に励まされ、安心感のなかで、少しずつ「私のつくる新しい家族」のことを第一に考えられるようになってきたように思います。

ESSE9月号の特集「親と縁を切ってもいいですか?」

では、ほかにも読者のリアル体験談や、『家族という病』の著者・下重暁子さんのインタビューを掲載しています。ぜひチェックしてみてください。