作家・作詞家として活躍する高橋久美子さんによる暮らしのエッセー。今回は、ようやく到来した夏を元気に乗りきるための食についてつづってくれました。
第26回「薬味と夏野菜で乗りきる夏!」
●今年はキュウリとミョウガが豊作
長かった梅雨が明けて、やってきました夏本番。ああ、日本の夏ってこんな感じだったなあ。もわっとして、空は広くて、蚊取り線香の匂いが懐かしくて。
雨が多かったので、家の畑になかなか昆虫が飛んできてくれなかった。そうすると野菜の花が受粉しない。虫が媒介して花粉を運んでくれていたんだねえ。自然は循環ででき上がっている。順調に実をつけていたトマトもキュウリもナスも6月半ばからの雨で枝ばっかり大きくなってしまった。もう今年はダメかなあなんて心配していたのだけれど、この頃は近所の少年たちが虫取り網を持って走り回っている。
「おーい、蝶々こっちに行ったぞー」「こっちにはトンボもいるぞー」
もれなく家の庭にも走り込んできて、その声で、ああよかった、虫たちやってきてくれたんだなあと思った。
梅雨が終わって、ジャングルと化した菜園に出てみると、
キュウリが1、2、3、4…ええ! 7本もできとるじゃないか。トマトは赤や黄色だからよく目立って時々食べていたけど、キュウリさん、ジャングルに溶け込んで気づいてなかったなあ。
そして、日陰には、ひょろりと笹の葉のように端正な出で立ちのミョウガさん。ミョウガは枝葉にはできないのでご注意を。根本を見ると、こんもりと土から顔を出している。そう、ミョウガの実は、半分土の中、半分は外に顔を出して「こっちこっちー」と言っている。頭に黄色い花をつけて可愛いのだが、花が咲いたら味が落ちるのでその前に収穫する方が良い。
近所のおばあさんは、去年は葉の辺りばっかり見てしまって食べ忘れたと言っていた。実は私も、愛媛で初めてミョウガを育てた年は同じことをしてしまったんですよと大笑いした。でも大丈夫、そのまま根っこをを抜かず放っておけばまた来年もひょっこり顔を出してくれる。ミョウガは太陽のあまり当たらないジメッとしたところを好むので今年は豊作だった。20個以上できているではないか!! 必要になると、窓を開けて取りに行く。土は生きた貯蔵庫だなあ。
●夏は料理で疲れないこと。簡単な食べ方を考えよう
実家から届いた野菜の中にもキュウリが…。しかも6本も。「家のはまだ取れてないけど、まゆみちゃんにもらったよ」と手紙に書いてある。ありがたいねえ。まゆみちゃんは、実家の近所のおばちゃんで野菜をあげたりもらったりする。今年は家はキュウリがダメだったわーというときに、まゆみちゃんの畑はどっさりキュウリができていたり、その逆もあって、私に送ってくれる野菜には近所のいろんな人の野菜が入っていて、みんなの顔を想像しながらいただく。
さて、このキュウリ、みんなが想像しているキュウリではない。スーパーに置いてあるものの3倍はあるおばけキュウリ! 家の庭のも相当でっかいので、しばらくはキュウリ祭りが続くだろう。スーパーに行けば年中手に入るけれど、旬の野菜しか食べない生活が子どもの頃から定着してしまって、いまだにキュウリを買ったことがない。いっぱい取れたら、その季節にいっぱい食べる。それは夏をかじっている感覚。そうして少しずつ私の体は夏モードになっていく。
スイカや、キュウリ、メロン等、瓜系は夏の火照った体を一気にクールダウンしてくれる。食べた先から体がすーっと冷えていくのがわかる。トマトと一緒にカットして、バジルを載せてバルサミコ酢と塩、コショウ、オリーブオイルで食べるのもいいし、味噌と刻んだ青ジソ(大葉)、梅肉にカツオ節を載せて、もろきゅう風にして食べるのもいい。糠漬けにすると夏なら半日ほどで良い感じに漬かる。夏バテしないためにも、栄養はつけたい。でも、夏は料理で疲れないこと。無理せず簡単に食べられる方法を考えることも大事だ。
●疲労回復には薬味。必ず常備している
夏に活躍するのは、何と言っても薬味である。味の濃い野菜は栄養素が高い。薬味を毎日しっかり食べていたら疲労回復も早いし、消化吸収も助けてくれる。何より食欲が湧いてくる。薬味と味噌、醤油、梅干しがあれば昼も夜も怖いものなし。そこに、お米、卵、豆腐や納豆を食べていたら私は元気でいられる。私が畑や冷蔵庫に必ず常備しているのは、青ジソ、ミョウガ、ショウガ、ゴマ、梅干し、味噌、バジル、ローズマリーである。
食欲ないなというときの定番レシピ。オクラ、モロヘイヤを茹でて切って、キュウリは一口大に、長芋は短冊切りにし、そこに納豆、刻んだシソ、叩いた梅干し1個、ゴマ、ミョウガ、醤油(または味噌)を入れて、よく混ぜる。簡単で栄養満点。
納豆が苦手な人は、冷奴にのせて食べるのもおすすめ。
●食欲がないときはゴーヤースムージーで元気に
ダンゴムシに全滅まで追いやられていたわが家のゴーヤーだったが、奇跡的に3本だけ復活して今すごい勢いで伸び始めている。家のゴーヤーラッシュは9月頃と思われる。
実家にいたときから夏になると楽しみにしていたのがゴーヤースムージー! あの苦味が苦手な人も、バナナと混ぜるからかぐいぐい飲めてしまう。小学生の甥っ子たちも大好きだ。ゴーヤーに多く含まれるビタミンCは熱に弱いので、熱さずに体に取り入れるのにも効果的だ。
つくり方は簡単で、ゴーヤー半分、バナナ1本、牛乳300cc、ヨーグルトをスプーンに2杯(なくてもOK)、氷を2つ入れて、ミキサーにかけるだけ。どうしても食欲ないなあというときはこれを飲むだけでも元気が出るので朝ごはんにおすすめだ。妹が育てて送ってくれたケールのスムージーも最高だった。
●冷えで体調を崩す女性こそ、夏野菜を温めて食べよう
この夏、何度食べても飽きないのが、夏野菜の旨味をぎゅーっと閉じ込めた焼きびたしだ。作り置きして数日は楽しめる。
オクラ、長芋、ピーマン、ナス、とうもろこし、ズッキーニ、トマト等をオリーブオイルで中火でしっかりと焼く。ただし、くたくたにならないよう注意。その前に…つゆをつくっておこう。出汁(うちは昆布とカツオで出します)を200cc、みりん、醤油を大さじ2、お酢またはレモン汁適量、醤油で調えたつゆの中に、焼き上がった順に野菜をどぶんと漬け込む。オクラやピーマン、トマトは色が変わりやすいので、さっと焼いて最後に入れる。冷蔵庫で半日くらい冷やすと味がなじんで良い感じになる。豚肉や豆腐などの水をきって、片栗粉をつけて焼き、入れてもおいしい。残った汁は、醤油を足して素麺の汁に再利用する。
夏は、クーラーの冷えで体調を壊してしまう女性も多いと思う。そういうときは、夏野菜も温めて食べるのがおすすめだ。例えばお味噌汁にキュウリやトマトを入れてみる。味噌がトマトの旨味によく合うし、温めたキュウリは瓜や大根のような新しい味わいで楽しめた。この夏の日常食になりそう。
●お手軽にできるミント水。今私がはまっている飲み物
それから最後に、ミントが庭に雑草みたいに生えているんですという方へ、今私がはまっているミント水を。
アップルミントやペパーミント、レモングラスなど家にあるハーブを耐熱ガラス容器に入れそこに60度くらいに熱したお湯を1リットル注ぎます。粗熱を取り冷蔵庫に入れると、すっきり美味しいミント水のでき上がり。お風呂上がりにいいですよ。
10年前には考えられないが、最近は自分の体調をよく知るようになった。火照っているなあ、冷えているなあという体のSOSに早めに気づき、毎日の食で、頑張らずにフォローしてあげられたらなと思う。
元気に8月を過ごしましょうね!
【高橋久美子さん】
1982年、愛媛県生まれ。作家・作詞家。近著に、詩画集
「今夜 凶暴だから わたし」(ちいさいミシマ社)、絵本
『あしたが きらいな うさぎ』(マイクロマガジン社)。主な著書にエッセイ集
「いっぴき」(ちくま文庫)、絵本
「赤い金魚と赤いとうがらし」(ミルブックス)など。翻訳絵本
「おかあさんはね」(マイクロマガジン社)で、ようちえん絵本大賞受賞。原田知世、大原櫻子、ももいろクローバーZなどアーティストへの歌詞提供も多数。公式HP:
んふふのふ