作家・作詞家として活躍する高橋久美子さんによる暮らしのエッセー。新年が明けて初回の今回、高橋さんがつづってくれたのは、年末年始で疲れた胃腸を癒してくれるスープのことです。
第11回「ほっと優しい年明けスープ」
●食べた分、肉になり、飲んだ分、内臓は悲鳴をあげる
あけましておめでとうございます。今年も暮らしの中のほっとした一時をつづっていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。
正月休みも終わって、ゆったり過ごした結果、あれ? ちょっとふくよかになった? なんてことはないだろうか。私の場合、実家に帰ったら必ず太る。次から次においしいものが出てくるから、出されるままに食べて食べてごろんと寝っ転がって…ああ恐ろしき。東京に戻ったときには顔がぱつんぱつんやないか!
そういえば胃袋もなんだかお疲れ気味。もう高校時代みたいに食べられるわけじゃないのに、母もついつい「久美子は餅3つ食べるよねえ」と言ってしまうし、私は私で「うーん、多分いける!」と、強行突破してしまうのよねえ。食卓のあのイスに座るとタイムスリップしちゃうんだよなあ。東京に戻って我に返る。食べた分、肉になる。飲んだ分、内臓は悲鳴をあげる。ああそうですとも。
●胃腸にやさしい野菜スープ。皮の栄養も味わって
胃袋をリセットするには野菜スープがいい。内臓から温まるしフル稼働だった胃腸をしばしお休みさせられる。実家で採れて母が送ってくれたカボチャを11月頃から寝かしておいたのだが、いつものポタージュをつくってみることにした。冬メニューの癒やし担当だ。
カボチャやサツマイモは、採れたてのものより1か月ほど寝かした方が、甘みが出ておいしくなるので、暖房のついてない廊下などで新聞に包んで寝かせている。皮にこそ栄養があるので、私は皮をむかない。乱切りにして蒸したカボチャをミキサーの中に入れ、適量の牛乳も入れて回す。なめらかになったら塩コショウで整えて、はいできあがり! 皮をむかなかったから、黄緑色のスープだよ。濃厚で甘みもあって優しいのに満足感のある、理想の一品。
野菜の皮はスーパーマン。無農薬のものは、皮を冷凍保存しておいて、全部をネットに入れてグツグツとだしをとる。
熊本県山鹿市内の公立保育園では、給食でこの野菜くずのだしを使った料理を毎日食べて子どもたちのインフルエンザ感染率がぐんと減ったそうだ。野菜くずのだし(ベジブロス)にはファイトケミカルがたくさん含まれている。ファイトケミカルとは野菜の皮や根に多く含まれる注目の栄養素で血液中の抗酸化力が高まるそうでアンチエイジングにも効果的。ベジブロスは植物とは思えないほどに濃厚でコクがあり、私は他のだしを混ぜなくてもものたりなさを感じない。
ただ、毎回皮をストックすることが難しいという方には、市販の野菜ブイヨンもおおすすめ。展覧会で忙しい最中に風邪を引いて声が出なくなってしまったとき、お客さんの差し入れでいただいた「オーサワの野菜ブイヨン」はその中でもとくにおいしいと思った。塩分もちゃんとあるので、野菜を切って煮込むだけで手軽に仕上がる。
昨年末は大根、カボチャ、タマネギ、ジャガイモ、ニンジンなど家に余っていた野菜に刻んだショウガ、野菜ブイヨン、ローリエ1枚を入れた簡単な野菜スープをよくつくった。ストーブの上でくたくたとスープを煮る。
今日より明日、明日より明後日の方がおいしくなっていくスープはまるで人生のよう。冬の体を温め胃腸を整えてくれる。少し飽きてきたらクミンやガラムマサラを加えてスパイシーにして食べるのもおおすすめだ。野菜だけではものたりない方はウインナーなどを入れるのもいいだろう。
●庭でも育てられるキクイモ。おいしいポタージュのつくり方
もう一品、ちょっと珍しい食材でつくるおすすめのスープはキクイモのポタージュだ。キクイモはコレステロールを下げる食材としても今話題になっているけれど、イモとは思えないそのビジュアルは高知の朝市で見る特大のショウガのよう! 調べてみて納得。イモ科ではなくてキク科ヒマワリ属なんですって。
愛媛の畑で妹と育ててみたら、私の背丈を越してみるみる大きくなってヒマワリにも似た黄色い花を咲かせたかと思うと、秋になって花が枯れた頃に地中を掘るとおもしろいほどキクイモがとれた!
どうやらどこでも簡単につくれるらしいということで、東京の庭にも無造作にキクイモを埋めていたら伸びる伸びる、ジャックと豆の木みたいにぐんぐん伸びて、愛媛のように大量ではないけれどちゃんと収穫できた。
さてそんなキクイモポタージュのつくり方を伝授しますよ。
2人分です。約300gのキクイモの皮をむかずにゆでて、そのゆで汁をお玉に1杯とゆでたキクイモとをミキサーに入れてスイッチオン、20秒くらい回したら…はい、できあがり! 塩コショウで味を整えます。
おいしい。牛乳も生クリームも入れていないのにこの濃厚さはなんだろう。クリーミーでかぐわしくて、簡単なのに高級感のあるスープだ。
ちなみにキクイモを長期保存するには土の中に埋めておけばいい。忘れてそのままになったものが来年の春に芽を出し、また花を咲かせてキクイモができるほどに生命力の強いイモなのだ。それぞれに味も原産国も違う野菜が海を渡って日本の土地に根づいてお腹に集って私たちに力をくれる。
野菜スープがあれば風邪知らず。大地のエキスをいただいて、今年もよいスタートが切れそうだ。
【高橋久美子さん】
1982年、愛媛県生まれ。チャットモンチーのドラムを経て作家・作詞家として活動する。主な著書にエッセイ集
「いっぴき」(ちくま文庫)、絵本
「赤い金魚と赤いとうがらし」(ミルブックス)など。翻訳絵本
「おかあさんはね」(マイクロマガジン社)でようちえん絵本大賞受賞。新刊の詩画集
「今夜 凶暴だから わたし」(ちいさいミシマ社)が発売予定。原田知世、大原櫻子、ももいろクローバーZなどさまざまなアーティストへの歌詞提供も多数。NHKラジオ第一放送「うたことば」のMCも。サイン入り詩画集の予約やトークイベントなどの情報は公式HP:
んふふのふ