50歳の漫画家・古泉智浩さん。古泉さん夫婦と母(おばあちゃん)、里子から養子縁組した長男・うーちゃん、里子の長女・ぽんこちゃんという家族5人で暮らしています。
荒ぶる波を見て興味津々のうーちゃん。初めての強風を体験して意外なことを口にしました。

どこでそんな言葉覚えたの?5歳児の感性はあなどれない…。

みんなで自宅にいて風が強く吹いていたある日、うーちゃんが波の様子を気にしていました。ちょっと前におばあちゃんと水族館に行ったときに近くの海ですごい波が打ち寄せていたのを見たと言うのです。

そんなことを興奮気味に話すので、海を見渡せるタワーに連れて行くことにしました。そのタワーは海底トンネルの煙突を兼ねた施設で、地下トンネルの両端に立っています。車道とは別に歩行者用のトンネルもあって、ランニングコースとして親しまれています。ぼくも雨の日には走りに行くこともあります。

波
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タワーの最上階には展望フロアがあり、港全体を見渡すことが可能。外は強風が吹き荒れて、堤防には激しく波が打ちつけ、白い水しぶきが高く上がっていました。「すごい波だね」とうーちゃんが興奮していました。展望フロアは窓ガラスで仕切られて雨も風も入って来ません。

タワーの4階にはベランダのような場所があります。自動ドアをあけて出るとそこはほぼ外です。その時雨が降っていなかったのでぼくだけ外に出てみました。するとすごい風で体を前に向けて斜めにしないと立っていられないほどでした。

「飛ばされそうだよ、うーちゃんも来てごらん」

「ぼくはいいよ」

来てごらん

うーちゃんは怖がって出てこようとしませんが、ぼくが強風にさらされている様子を見て興奮している様子でした。ぼくが自動ドアの内側に戻って、うーちゃんの手をつかんで強引に外に連れ出してみたところ、怖がりながらも興奮して笑っていました。これでもし泣き叫んで嫌がったら虐待になってしまうので、ひやひやしました。

風を楽しむうーちゃん

室内に戻るとうーちゃんは「すごい冒険だったね」と興奮気味に言いました。「冒険」などという抽象的な概念を理解していることに驚きました。

それから数日して、先日亡くなった祖母の四十九日法要がありました。家族で親戚の家に行った帰りにタワーの近くを通りかかると、うーちゃんが皆でタワーに行こうと提案しました。うーちゃんとぼくしか行ったことがないため、うーちゃんは自慢気でした。

その日は風でもなんでもない穏やかな日曜日でした。うーちゃんとぽんこちゃんとぼくで4階のフロアで鬼ごっこをしました。

ぽんこちゃんは鬼ごっこの意味がわからないので、うーちゃんにタッチされて鬼になると、うーちゃんを叫び声をあげて追いかけます。ぼくはぽんこちゃんにタッチして鬼になり、今度はうーちゃんを鬼にします。すると、うーちゃんはまたぽんこちゃんをタッチして鬼にします。ぽんこちゃんはぼくにタッチすればいいのに素通りしてうーちゃんを追いかけ、うーちゃんは叫びながら逃げます。

追いかけっこ

トイレに行っていた妻がその声を聞き、ただごとではないと勘違いして慌てていました。そのタワーは人気のスポットでもなんでもないため、ほかにだれもおらず家族で貸し切り状態。うーちゃんとぽんこちゃんの声と妻の慌て声がタワーにこだましていました。

【古泉智浩さん】

漫画家。1969年、新潟県生まれ。93年にヤングマガジンちばてつや賞大賞を受賞してデビュー。里子を受け入れて生活する日々をつづったエッセイ

『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』

、その里子と特別養子縁組制度をめぐるエピソードをまとめたコミックエッセイ

『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』

など著書多数。古泉さんの最新情報はツイッター(

@koizumi69

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