令和もなじんできたこの頃ですが、今こそ平成ドラマを振り返ってみませんか?
数々の社会現象を巻き起こしてきた平成のドラマ。ここでは、女子の生きる道を考察してきたコラムニストの辛酸なめ子さんに、平成ドラマのヒロインたちを総ざらいするコラムを寄稿していただきました。
平成ドラマを振り返れば、そこに「私たち」がいました
●平成初期は恋愛至上主義の時代でした
平成ドラマの始まりは、バブル絶頂期でした。そして「失われた10年」と呼ばれる不況の沼にはまり、停滞しながらも働き方改革などで仕事量がセーブされている現在。大ヒットドラマを振り返ると、ヒロイン像にも変化が見られます。
たとえばバブル絶頂期、宮沢りえ絶頂期の『いつも誰かに恋してるッ』(90年)は、カイリー・ミノーグの曲をBGMに、ビーチでバカンスを楽しむシーンから始まり、ヒロインの桜井理子が溺れて人口呼吸される、という少女漫画チックな展開にユルい空気が漂います。
『東京ラブストーリー』(91年)のヒロイン、赤名リカも無邪気で強気なキャラでした。透きとおった目と高い声で自分の欲求をとおし、急に予測のつかない行動をしたりして男を翻弄。当時は恋愛至上主義みたいな空気がありました。
『101回目のプロポーズ』(91年)のヒロイン、薫も、イケメンではない男性にアタックされ続けるという、高嶺の花的な美女でした。
●バブル崩壊!景気と連動して不遇なヒロイン像時代へ
バブルが崩壊するとヒロイン像も一転。
『高校教師』(93年)は、陰のある女子高生、二宮繭と、高校教師の羽村のラブストーリー。禁断の愛を盛り上げる、電車で二人が寄り添うシーンは、2017年の今井絵里子議員の新幹線ラブラブ写真に受け継がれているような…。ドラマの刷り込みもありそうだと妄想。
『ポケベルが鳴らなくて』(93年)も禁断の恋がテーマでも恋愛が上級者向けに発展。ポケベルの画面を見つめる保坂育未の薄幸オーラが印象的でした。裕木奈江は役にハマりすぎて女性に嫌われる羽目に…。
『家なき子』(94年)の、安達祐実演じる相沢すずは不遇な家庭環境のなか、犯罪行為にも手を染めてタフに生き抜いていきます。常にオーバーオール姿で金銭的な苦しさが伝わりました。キャラを細かく作り込んでいるのがヒットドラマの勝因です。
『イグアナの娘』(96年)は、自分の見た目がイグアナに見えて悩むヒロインが登場し、『ロングバケーション』(96年)は、婚約者に逃げられモデルの仕事もクビという厳しい状況のヒロイン像でした。
景気と連動し、自信を失った人々が、大変な境遇のヒロインを見て励まされていたのかもしれません。
●平成後半で目立ったのが特殊能力をもつヒロイン…でも幸せは?
不遇の時代から頭ひとつ抜けたのが、特殊能力をもつヒロインです。東大卒の天才的な頭脳をもつヒロインが事件を解決に導く『ケイゾク』(99年)、無表情で完璧に任務を遂行する家政婦が大人気だった『家政婦のミタ』(11年)など。淡々と家事を手際よくこなす『逃げるは恥だが役に立つ』(16年)のヒロイン像の伏線になっているようです。“逃げ恥”の森山みくりの方が要領よさそうですが…。
『あまちゃん』(13年)のヒロインは、海女になりたいと言っていたのにアイドルになって、またやめて、といった調子で、ゆとり的な自由な生き方を提示しているようです。
なにも考えなくても美人なら生きやすかった平成初期のヒロインから、特殊能力があってもそれだけでは幸せになれないヒロイン、臨機応変に身の丈に合った幸せをつかむ現代のヒロイン、と変化した平成ドラマ。次の時代、令和はもっと幸せなヒロインが登場することを祈ります。
ESSE6月号の特集「私たちの平成ドラマ回顧」では、読者投票で平成ドラマの人気ランキングや、忘れられない名セリフ、主題歌などを調査。こちらもあわせてチェックを。
【文・イラスト/辛酸なめ子さん】
1974年、東京生まれ、埼玉育ち。漫画家、コラムニスト。ウェブサイト『
女子SPA!』連載など、多くの媒体で執筆中。
『ヌルラン』(太田出版刊)ほか著書多数