ペットの柴犬の写真をツイッターに投稿し続け、その自然体のかわいさが人気となっている
@inubot。
ESSE ONLINEでは、飼い主で写真家の北田瑞絵さんが、犬(ネット上では本名は明かさずに「犬」と呼びます。理由は
インタビューに詳しく掲載)と家族の日々をつづっていきます。
今回は、初めて犬が家に来たときのことについて。
柴犬の男の子がわが家にやってきた!小さな生命体を前にわいてきた気持ち
私は和歌山で、父と母と兄と犬と暮らしている。そして一人暮らしをしている妹がひとり。
すべての画像を見る(全12枚)犬は柴犬の男の子、5月に4歳の誕生日を迎えた。
うちに来たときの犬は生後3か月で、父の両手に収まるほど小さかった。
犬がやってきた日のことは今でも鮮明に思い出すことができる。
―2014年8月11日
うちには私が物心のつく前からエースという名前の柴犬の男の子がいて、一緒に大きくなってきた。とくに妹は犬と同じ年に生まれたので“きょうだい”という意識をもっていたように思う。
犬の寿命は人間に比べるととても短い、エースは2008年に亡くなってしまった。
それからはなかなか犬を迎えようという話にはならなかったけれど、母親は私たち子どもに手がかからなくなり、これからのことを考えたときに「犬がいない生活はないな」と思ったらしく、2014年の春が終わる頃から、犬を家族に迎えようという計画を進めていた。
そしてその日がやってきた。
母と父がペットショップに行くなんてまったく知らないまま、私は朝から出かけていた。
「一度実際に見に行ってみよう」という心もちで両親が向かったペットショップに、現在の犬がいた。
店に入ってまず母が今の犬を抱っこさせてもらったときに、「この子にしようか」と、腕の中に犬を抱えながら父に言ったそうだ。
今思うと母は子どもの頃からこれまで、ほとんどの時間を犬と生活をともにしてきたので、私がわかっていなかっただけで、もっと早く犬と暮らしたかったのかもしれない。
そして父から私たち兄妹に、メールの一括送信で「家に帰ってくるのを楽しみに」といった、なんとももったいぶったメールが届いた。
もうこれまでの流れから、犬がきたとすぐにわかった。妹も同じだったようで「帰ったら写真送ってな!」と電話がかかってきた。私たちは高揚していた。
夜、家に着くと、出かけるときにはそこにいなかった生命体が少し不安げに座っている。
物心がついたときにはエースはすでに成犬の大きさだったので、子犬に触れるのは初めてだ。
親戚の赤ちゃんに触れるときの心境に似ている。生理的にかわいいと感じるが、壊れ物を扱うような緊張が、触れるときに少し走った。
そうか、この子が家にやってきたのか、そうか。
ありがとう、うれしい、そんなよろこびが自然とわいてくるが、同時に大変なことだぞとも思った。私たちには幸せにする責任がある。
幸せなんて曖昧すぎる定義だが、まず絶対に病気やケガには気をつけるぞと犬を前に誓った。
―2014年8月13日 命名
なかなか名前が決まらない。
だいたいの名前はその人が一生でもっともよく耳にする言葉となる。
名前を呼ばれるときの音の響きや音波はこれから性格を形成するうえでも影響していくだろうし、名前の文字面も犬が認識するとかしないとかは関係なく深く関わるように思う。
こうして悩んでいる間にも、犬が自分の名前を認識しなくなったらどうしようなんて焦ってもいた。祖母が「名なしの権兵衛さん、権兵衛さん」と仮のあだ名で犬に話しかけているのを見るとさらに焦る、犬が自分は権兵衛だと認識する前に急がねば。
場所見知りすることもなく、どんどん家になじんでいく犬。
家族全員がひとつ以上名前の案を出し、10通り以上の候補のなかから、最終的に妹が選んだ。
犬の名前は母が挙げた「潤」でも兄の「ウッディー」でもなく、はじめに私が考案した名前に決定した。
「北田瑞絵」という自分の名前はとても気に入っているが、そのうえで、文字面の印象としては角が多く直線ばかりで、画数も多いと感じる。「余」「白」のようなゆとりや伸びやかな部分がない、私の性格では。
この子には角がないまるみのある文字で、ふわっと軽やかに跳ねるような音にしたかった。
やわらかく、伸び伸びとした、明るさがある子に育ちますように。
犬にもいろいろあるけれど、できるだけ笑顔で過ごせますように。
そんな犬の名前に込めた願いは、日々叶えられている。
家族に言ったこともないが、当時私は、エースのことを思い出さなくなるのが怖かった。
今となれば、どちらかによってどちらかを忘れるなんてことも、エースもこの子も、代わりがいたり、忘れたりできるような存在ではないとわかる。
でも名前を考えているときは「エースを覚えていたい」という気持ちもあって、エースが兄でこの子が弟、一郎と次郎、A作とB作のような要素も名前に含ませた。
これからも私はネット上では「犬」と呼ぶ。
この連載は「一回につき800字くらいの文字数で」ということだったのですが、どうしても犬がやってきた頃のことを話すと長くなってしまった。次回からは800字程度にしたいと思うのですが、急激にやる気がなくなったと思われたらどうしよう。
これから犬のささいな癖、犬がもたらす安心感、そして生き物を育てる責任など、犬との日々の暮らしを写真とともに記していけたらと思いますので、どうぞおつき合いください。
【写真・文/北田瑞絵】1991年和歌山生まれ。バンタンデザイン研究所大阪校フォトグラファー専攻卒業。「一枚皮だからな、我々は。」で、塩竈フォトフェスティバル大賞を受賞。愛犬の写真を投稿するアカウント
@inubotを運営。