家族で家事分担をシェアする「家事シェア」という考え方が注目されています。
ESSE読者100名を対象にしたアンケートを実施したところ、「家事分担の割合に不満がない」と答えた人は、全体の5%程度。
取材をしていくと、「家事をしてくれない夫が悪い」という単純な問題ではなく、社会や家族のあり方も含んだ、複雑な構造が浮かび上がってきました。
ここでは、家事シェアに関するESSE世代の本音を探ってみました。
本当の不満は夫より世間の風潮。家事シェアが進めば「手抜き」と責められる!?
<奈美子さん(30歳)のケース>
最初にお話を伺ったのは義理の両親と同居中の奈美子さん。家事をしてくれない夫よりも、気持ちをえぐられることがあると言います。
「私は5歳と3歳の子どもを抱え、フルタイム勤務をしています。朝早くから起きてお弁当づくり、家事をすませてからの出勤。帰ってきてからも食事の準備などノンストップで進めていますが、夫の手伝いはほとんどありません」
「私も働いているのだから少しは手伝ってほしい」と奈美子さんが伝えても、「なにもしてないみたいに言うな!」とキレられる始末。
もう夫のことはあきらめているという奈美子さんですが、「私がもっともイラっとするのは、女性は完璧にやるのが当たり前で、やりきってもほめてもらうことはないのに、男性がちょっとやっただけで、ほめてもらえる風潮です」と語ります。
「以前、夫がゴミ捨てをしているのを見た近所の方が『いい旦那さんね』とほめてきたのですが、私はその間に朝食とお弁当の準備、皿洗い、洗濯とフル稼働! でもそれをほめてくれる人はだれもいません」と奈美子さん。
「同居している義母も、たまに夫がした風呂掃除を見て『よく動いてくれるからいいわね』と言ってきます。義父がなにもやらない人なので気持ちはわかるのですが…」
夫が奈美子さんの料理について、「手抜きだ」と冗談を言うことがありますが、そんなとき義母はなにも言いません。
「その苦笑いの表情から、夫と同じように手抜きだと感じているんじゃないかと思うんです。正直、納得いきません。夫が家事を手伝ってくれるようになったらうれしいですが、ラクをしているとか手抜きだとか思われるくらいなら、今のほうがまだましかも…なんて考えてしまいます」
働いていない肩身のせまさ。「女性も社会進出を!」という風潮のほうが恐ろしい
<雪絵さん(41歳)のケース>
次にお話を伺ったのは、女性の生き方についての社会的な風潮に押しつぶされそうになるという雪絵さんです。
雪絵さんが住むのは、保育園しかない田舎。子どもが小さいうちは子どもを優先して家にいたので、隣の市の幼稚園に通わせていました。
「でも小学校に上がってみると、周りのお母さんたちは全員働いている状態でした。子どもが手を離れてきたこともあり、パートに働きに出るようになったのですが、職場の環境が悪くて…。仕事のストレスからどこにいても暗い気持ちになってしまい、限界を感じて辞めました」
働くことが嫌いなわけではないけれど、子どもが体調を崩したときにストレスを感じたりしたため、もう少し専業主婦でいることにした雪絵さん。
「でも専業主婦となった今も、気持ちがすっきりすることはありません。同じ学校の周りのお母さんたちが全員働いている状態なので、私は本当にこれでいいのかなと…」と雪絵さんは不安な様子。
●働くママに比べて「ラクをしている」と思われるのが悲しい
「今、いろいろなところで『働くママを応援!』とか言われているし、男性が家事を手伝って女性も働くことを推進する流れがありますよね。私はそちらの方がいやなんです。家事をきっちりがんばればいいんじゃないと思われるかもしれませんが、夫は経済的な理由から私に働いてほしいと考えているし、自分の家事能力に自信があるわけでもありません」
「専業主婦はけしてラクな仕事ではない」という雪絵さんは、毎日朝4時に起きて家事を片づけ、ひと息つけるのは本当にわずかな時間という日々を過ごしています。
「それでも世間や、働いてもらいたい夫から見ると、ラクをしているように思われているのかと思うと悲しいです。なにをしていてもモヤモヤしている自分がいます…」
家事ともいえないようなことの多さにイライラ……お互いが笑顔でいるために作った「家事表」
<麻衣子さん(33歳)のケース>
そんななか、工夫をして少しずつ歩み寄れている、麻衣子さんのような夫婦もいます。
「夫は協力的な方ではあると思うのですが、言ったことしかやってくれないため、モヤモヤすることがありました」と話す麻衣子さん。
家事といえない小さなことに、つい目がいってしまっていたそう。
「たとえば飲んだ缶ビールを洗わずに流しに放置していたり、洗って乾かすまではやってもゴミ箱には捨ててくれなかったり、など…。つもりつもってイライラが爆発してしまうことが多くなりました」
夫は波風を立てたくないタイプなので、激しいケンカに発展することはありませんでしたが、このままではよくないとずっと思っていました。
●「やりたい家事」を冷蔵庫にはると、夫が手伝いやすくなった
そこで麻衣子さんは、家事としてやりたいと思っていることを細かく書いて一枚の表にし、冷蔵庫にはることに。
「たとえば週末にシーツを洗いたい、布団を干したいと思ったら、そこに書き込みます。どんなことを求めているのかが一目瞭然でわかるようになり、手伝いやすくなったと夫は言っています。この表のいいところは、自主的に手伝いができること。頼まれると夫が動き出したいタイミングとあわないこともありますが、この表があれば自分のタイミングで動くことができると、夫にも好評です」
最初は「専業主婦だし、頼むのはどうだろう」と不安な部分もありましたが、自分がイライラして爆発してしまうくらいならきちんと頼んだほうがいいと気づいたといいます。
「夫はただ家事のやり方がわからずに動けなかった部分もあったんだ、ということがわかりました。今では表に書いていない部分でも積極的に動いてくれるようになり、少しずつ夫婦が歩み寄れている気がしています」
●家事は成果や対価が見えにくく、モヤモヤすることも
女性の生き方が多様化するなか、今回の取材では自分の生き方に自信が持てなかったり、ほかの人にかけられる言葉にモヤモヤしたりするという声が多く聞かれました。
家事というのは成果や対価が見えにくい仕事で、それを毎日続けていくというのは本当に大変なこと。
収入の多寡や家事能力に関係なく、夫婦で自然に家事がシェアできる環境や仕組みづくりが求められています。