エリート武士が、女性に春を売る裏稼業に左遷されるという異色のテーマの時代劇映画『のみとり侍』で主演を務める阿部寛さん。

映画の公開に先がけて、ESSE編集部が、作品の見どころや、劇中で披露される「肉体美」の秘訣についてもおうかがいしました。

阿部寛

色男の手練手管を「のぞき見」する場面は、シュールで笑えます

映画『のみとり侍』で阿部寛さんが演じるのは、越後長岡藩の勘定方書き役・小林寛之進。藩主に忠誠を誓うエリート侍ですが、ある日、藩主の怒りを買い、江戸市中での“猫のノミとり”業に左遷されます。

このノミとり業、表向きは猫の世話、しかしその実態は女性に愛を奉仕する仕事。
いささか衝撃的なこの役を阿部さんはどのように受け止めたのでしょうか?

「駆け出しの頃から敬愛する鶴橋監督に主演のオファーをいただいたときは、本当にうれしかったですね。でも同時に大人の事情で巡ってきた話だとしたら、つらいなあと思ったんです(笑)。そこで生意気なのは承知で、監督に直接お会いしたいとお願いして。『お前が演じてくれるなら、俺はやる!』。その声を聞き、心が固まりました」

寛之進はノミとりの親分、甚兵衛に女心を、さらに豊川悦司さん演じる清兵衛に女性の喜ばせ方の指南を受けて成長します。

「それまでの寛之進は庶民の生活をよく知らないし、どこか上から目線だったと思うんです。それがいろんな人と関わるうちに『世間にはこんな人間がいるのか!』と、徐々に考えが変化していく。豊川さんとは初めてご一緒したんですが、監督の意図を理解しつつ、いい意味で期待を裏ぎる芝居をされていたのが印象的でした。清兵衛に床での手練手管を学ぶ場面もおもしろかった。寛之進が江戸いちばんの色男の技を覚えようと、必死にのぞき見する場面は、シチュエーションだけでもシュールで笑えます」

ときにコミカルに描かれる官能的な世界のなかで、阿部さんの肉体美にも魅せられます。

「じつは撮影前はほかの作品のために体重を落としていたので、武士の恰幅を出そうと体重を増やしたんです。夕方になると焼き鳥屋へ駆け込み、串をひととおりとおにぎりを3、4個食べる生活を10日ほど続けました。休みの日はジムにも通っています。2週間に1回程度ですが、体を動かすと気持ちもスッキリしますね。スポーツクラブは元気で前向きな人が来る場だから、あの空間自体が好きなんです」

長期の休暇は旅行に出て、ゆっくりと過ごすことが多いそう。
「とくに海外では周りがだれも自分のことを知らないので、リラックスして完全にオフにして過ごしています。日本にいると、どこかスイッチが入っている状態になっているので」

仕事でもプライベートでも常に前向き。そんな阿部さんだからこそ、新しい芝居を表現し続けてくれるのでしょう。

●『のみとり侍』

小林寛之進(阿部寛)は、越後藩主・牧野備前守忠精(松重豊)に恥をかかせたとして、春を売る男である“猫のノミとり”業に就くことを命じられる。ノミとりにもまじめに向き合う寛之進は、江戸の町人の機微に触れて、変化していき——。監督・脚本の鶴橋康夫氏が長年温めてきた時代劇作品(5月18日公開)。

【阿部寛さん】

1964年生まれ、神奈川県出身。’87年、映画『はいからさんが通る』で俳優デビュー。近年の映画出演作品に『エヴェレスト 神々の山嶺』『海よりもまだ深く』『祈りの幕が下りる時』『北の桜守』などがある