声優としてだけでなく、俳優、歌手と幅広く活躍し、先日千秋楽を迎えた舞台『髑髏城の七人』Season月《下弦の月》では座長を務めるなど、話題作に多数出演している宮野真守さん。自身のキャリアを振り返る自叙伝『宮野真守 Meet&Smile』(日経BP社刊)の発売にあたって、これまであまり語られてこなかった仕事のことや、逆境を強みに変える秘訣をうかがいました。

「根拠のない自信」にあふれていた、かけだしの頃

宮野真守さん
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7歳で劇団ひまわりに入り、すでに25年以上、演技の道を歩んでいる宮野さん。今でこそ、アニメに舞台に歌にと大忙しの毎日ですが、著書に「子役時代はエキストラの仕事が多くて、悔しい思いをすることもありました」とあるように、キャリアをスタートしたばかりのときは挫折も多かったといいます。

「小さい頃からテレビっ子で、自分も人前でなにかを表現したいという気持ちを強くもっていました。でも、最初はなかなか仕事につながらなくて…劣等感を抱いたこともあります。そのくせ、なぜか根拠のない自信はあって。仕事も実力もないなかで、『早くああなりたい』『こういうことをやりたいなあ』なんて夢ばかりたくさんもっていましたね。仕事をいただけるようになってから実現した夢もいくつかあるので、今にして思えば、あの時期も必要だったのかもしれない。当時の自分に会ったとしたら、『そのまま甘い夢を見ておけよ』と伝えますね(笑)」

転機が訪れたのは、2001年に海外ドラマの吹き替えでレギュラーの役を得たとき。そこから声優として活動を始め、今ではすっかり声優界のトップランナーの1人に。今年もテレビシリーズやアニメ映画などの大作出演が控えています。

「あらためて自分の仕事を振り返ってみて感じるのは、いかに多くの出会いによって今の自分が支えられているかということ。『Meet&Smile』というタイトルにも、そうした出会いのひとつひとつが自分の糧になったという感謝を込めています」

斎藤工くんとは、会えないなりに2人とも刺激を受けていた

キャリアを重ねるなかで、出会ってきた人たちも多岐にわたります。過去にミュージカル『テニスの王子様』で共演した、俳優の斎藤工さんもその1人。本書には対談も収められていますが、なんと9年ぶりの再会だったそう。

「驚いたのが、工くんが僕の活動をかなり見てくれていたこと。お互いの印象からエンターテインメントに関する視点まで、本当に話がつきませんでした。久しぶりに会って、言葉を交わして、会えないなりに2人とも刺激を受けていたということがわかったのが喜びでしたね」

本書には、ほかにも三代目J Soul Brothersのヒット曲「R.Y.U.S.E.I」も手がけた音楽プロデューサーのSTYさんを始め、宮野さんと仕事をしてきたクリエイターの方々が宮野さんを語ったインタビューも収録されています。周囲から語られる宮野さん像は「ポジティブ」と評されることも多いですが、ご本人は、自身の性格を評して「基本ネガティブ」と、意外なひと言。そして、じつは、そのネガティブなところを大事にしていると語ります。

「仕事の場ではあえてネガティブなところを見せる必要はないと思いますが、僕も人間なので、人並みに落ち込んだりもします。でもそれって悪いことではなくて、自分のことを客観的に見つめるうえでは、ネガティブな視点が生きてくることもあるんですよね。なにか新しいことに挑戦してうまくいかないときに、『なんとかなる』って楽観するよりも、『どうしてできないんだろう』と、深く考えることが大切。それが、やみくもな自信ではなくて、もっと深い自分への信頼の原動力になっているんだと思います」

大切なのは「好き」「やりたい」をつらぬくこと

大切なのは「好き」「やりたい」をつらぬくこと

「いろんなことをやらせていただけるなかで、『人を楽しませたい』という子どもの頃に描いた夢には確実に近づいているとは思うんです。でも、その奥深さを知れば知るほど、つきつめるには道のりはまだまだ遠いと実感しています。30歳のころに書いた『passage,』という曲に『近づくほど離れて見えて』という歌詞があるのですが、まさに今もそんな気持ちです」

これまでのキャリアを「うまくいくことばかりじゃなかった」と語る宮野さん。声優を目指す人だけでなく、今、自分がおかれている状況を変えたいと思っている人や夢に向かっている人へのアドバイスをお願いすると、ゆっくりと、言葉を選びながら、ご自身の思いを語ってくれました。

「なんだかんだで、諦めないことと、そのなかで、どこまでできるかわからないけれど、自分を知るのが重要かな。もちろん、僕は運もよくて、いろんな作品に恵まれてきたという感謝もあるのですが、うまくいかなくなったときに、もう一度稽古し直して、そこでまた大事なものと出合ったり、諦めないで続けてきたからこそ、今があると思っています。
そして、いちばん大事にして欲しいのは、『好き』『やりたい』という気持ち。自分がやってみたいことは、なんでもやってみる。僕は声優としてのキャリアを築けたからこそ、関われるエンターテインメントの幅が広がったなと思ってます。ジャンルを限定せずに、自分のやりたいことをどんどんやってほしいし、ひとつひとつのことに貪欲になって、『好き』『楽しい』と思うことを追求してほしいです」。

演技にコンサート、ブログまで、どんなときでも「待っているファンの方に楽しんでもらえる」ことを大切にしているという宮野さん。最後に、ファンの方へのメッセージをいただきました。

「どんなに楽しくても趣味で終わっちゃったら意味がない。エンターテインメントのあり方はめまぐるしく変化していますが、見てくれるお客さまがいないと成立しないものなんだというのはいつでも変わりません。いろいろな挑戦をしたなかで感じてきたことを今回初めてたくさん明かしたので、ぜひ手にとっていただきたいです」

出会いを大切にしながら自分の道をきりひらき、さらに遠くを見つめている宮野さん。元気の出る言葉がめいっぱいつまった、自身のキャリアを振り返る自叙伝『

宮野真守 Meet&Smile

』は、さまざまな「夢」を追いかけている方にも響く一冊です。

【宮野真守さん】

1983年生まれ。幼少期より劇団ひまわりに所属し、声優・俳優・歌手としてキャリアを積む。『DEATH NOTE』で第2回声優アワード主演男優賞受賞。公開待機作に

『銀河英雄伝説 Die Neue These』

(ラインハルト・フォン・ローエングラム役)