これまで海外7か国に住み、海外事情や異国文化に関する執筆も多いイギリス在住のライター、ボッティング大田朋子さん。今回は、イギリスでクリスマスに食べる伝統料理について教えてくれました。
イギリスのおせち料理!?伝統的なクリスマスディナー
日本のおせち料理やお雑煮と同じく、イギリスでのクリスマス料理も各家庭でそれぞれの伝統と習慣があります。とはいえクリスマスの日に家族が集まって囲む食卓でのメニューの流れは、「前菜」、「メインディッシュ」そして「デザート」が一般的です。
すべての画像を見る(全4枚)「前菜」は、これまた家庭によって違うでしょうが、私の義家族(イギリス人)宅ではスモークサーモンのカナッペやプラウンカクテル(エビのサラダ)といった魚介類が定番です。
「メインディッシュ」では、イギリスの伝統料理のひとつ「ロースト」が振る舞われます。
イギリスでは日曜日に家族が集まってローストチキンやローストビーフを食べる「サンデー・ロースト」が今でも健在。ロースト料理が根付いている国だけにクリスマス料理のメインとしても登場です。ただ同じローストとはいえ、クリスマスでローストされるのは普段はめったにお目にかからない「グース(ガチョウ)」や「ターキー(七面鳥)」!
ロースト料理って材料をオーブンに入れてただ焼くだけ、のようにも見えるのですが、じつは奥が深いんですよ。たとえば、どの肉をローストするにしても、その中には、タマネギ、ブレッド・クラムス(細かくしたパン粉のようなもの)、セージ、バターなどの「スタッフィング(詰め物)」をします。これが肉の乾燥を防ぐんです! クルミを入れたりセロリを入れたりと、各家庭によって工夫と技があります。ローストする肉の外側にはベーコンやソーセージなどをかぶせて…と、これもまた肉が乾燥するのを防ぐため。ローストって豪快さの裏に、気使いがいる料理なんですよねえ…。
そして、ロースト料理で忘れていけないのが「グレイビーソース」。お肉をじっくり焼いたときにでる肉汁と、野菜のゆで汁をあわせてつくります。お皿全体に回しかけて食べますが、これが本当においしい!
お肉のつけ合せには、タマネギ、ニンジン、パースニップ(白ニンジン)、バターナッツカボチャ、ズッキーニ、パプリカなどの野菜をこんがり、じっくりとローストする「ロースト・ベジタブル」が添えられます。ローストする野菜も家庭によりそれぞれですが、クリスマスのローストに絶対に欠かせないのは「芽キャベツ」です! 芽キャベツだけはクリスマスディナーの野菜として必ず添えるのが伝統です。
イギリスのクリスマス料理って、日本のおせち料理のようにローストの一品ごとにゲンを担いだ意味はないのですが、たとえば芽キャベツは、寒さが厳しいこの時期に不足しがちなビタミンが豊富だから、なんていう説もあります。それにグレイビーソースをかけていただくロースト料理って、体のなかからあたたまります。というわけで、ローストや芽キャベツがクリスマス料理として選ばれるのには、それなりに理由があるのかもしれません。
メインディッシュが終わった時点で、おなかはパンパンです…が、がんばってデザートに続きます。
デザートには「クリスマスプディング」と呼ばれる、ドライフルーツ、ナッツ、スパイス、盛りだくさんの砂糖などでできた、ずっしりと重い蒸しケーキのようなものが出ます。食べる前にブランデーやコニャックをかけて火をつけて「フランベ」! 火が燃え上がるのを見て一瞬盛り上がる…といった感じでしょうか。このクリスマスプディングの中身も、各家庭によって違います。義家族宅ではフランベする前に小銭も入れます。切り分けたあと、小銭が入っていた人は当たり! 幸運とされています。
そして最後のしめは、チーズ! イギリスでは甘いデザートを食べたあとのしめを飾るのはチーズです。チェダー、スティルトン、ブリーなどの数種類のチーズとクラッカーがウッドボードに乗せられて回され、各自好きなチーズを好きなだけ切り分けてとっていただきます。実際おなかがいっぱいなのですが、おいしいチーズを目の前にするとどうしても食べてしまう…なんて葛藤はみんな同じなのです。
12月25日のクリスマスの昼食は、こんな感じでロースト料理をおなかいっぱいいただき、ランチの後はエリザベス女王のスピーチを聞くのが通例。とはいえ、食べすぎたおなかと、ほどよく回ったお酒で否が応にも眠気がおそってきて…。私はこの眠気に負けないようにと、いつも午後はお散歩に出ます。同じようにおなかをおさめようと散歩をしている夫婦や家族とすれ違うと「メリークリスマス!」と言い合いながら、「今年も食べ過ぎちゃいましたよね…お互い散歩して消化しなきゃですね」なんて、思い合っている光景もクリスマスの風物詩です。
みなさんも食べすぎにはお気をつけて、すてきな年末年始をお過ごしくださいね!