「考えなくても自然に体が動いて台所仕事ができる」「コックピットのように使いたいものがすぐに手に届く」…。このところブームになっている、時間をムダにしない、家事を効率的にするための「キッチンづくり」。今、雑誌で特集が組まれることはもちろん、関連書籍も書店の実用書コーナーを大変賑わしています。その背景には、女性がますます忙しくなり、家事に使える時間が短くなっていること。本当に必要なものだけを手元に残し、生活のノイズとなるような余計なもので心の平穏を乱されたくないという願い。そして、家族の口に入るものはきちんと自分でつくっておきたい、という事情があるようです。
実際に、本当に使えて頼れる道具を厳選して少なく持ち、出し入れしやすい場所へ置けば、キッチンに立つ時間は圧倒的に短くなります。また、キッチンに入ってくるものをスマートにコントロールすることも、時短やムダ使い防止にひと役買うことに。
では、このような時間をムダにしないキッチンづくりをするにはどうすればよいのでしょうか?ドイツ人の母、日本人の父をもち、ドイツでも育った料理研究家・門倉多仁亜さんに、ドイツ式の合理性を取り入れたキッチンの整え方を伺ってみました。
もつものが少なければ、キッチンの手間はおのずと減るものです
白く清潔感あふれる門倉さんのキッチン。ワークトップにはものがなく、シンクには水滴ひとつありません。お茶や食事の支度をしたあとも、すぐに片づけ、さっとひとふき。シンクの水滴をふき取るまでが一連の動作となっていて、一瞬のうちに元どおりの片づいたキッチンに。
「キッチンがすっきりしていれば、料理もすぐに始められて、手際よくつくれますよね。そのために、ワークトップにはものを置かないようにしています。棚の中には、今、必要なものだけを、使う場所の近くに置きます。こうすれば、使うときは取り出しやすく、しまうのも簡単です。私は本来、面倒なことは苦手。どうしたらラクして片づけられるかを考えて、こうしているのです」
ドイツには「人生の半分は整理整頓」ということわざがあるそう。普段から整理整頓していればムダな時間を過ごすことがないのと同時に、整理整頓がそれだけ大変で大切だということも意味しています。
「ものを多くもてば、その分整理整頓にも時間がかかってしまいます。だから、できるだけシンプルに、いまの自分に必要なものだけをもつよう心がけています」
必要なものだけを出し入れしやすい場所に!使ったらすぐに片づけ
整理整頓を覚えなさい
そして好きになりなさい
そうすれば時間と手間を節約してくれるでしょう
Lerne Ordnuug, liebe sie.Sie erspart dir zeit und Muh.
―ドイツのことわざより
今、必要なものだけを、出し入れしやすい場所にしまい、使ったらすぐに片づける。その単純なことの繰り返しが、使いやすく、片づいた美しいキッチンの基本です。
●買ったまま、いただいたままでものを置いておかない
買ったままやいただいたままのパッケージで置きっぱなしにすると、部屋が雑然と見えたり、そのまま使いそびれたりする原因にもなります。これはそのまま、ものを大切にしていないという行為につながってくることに。「たとえばわが家では、たくさんすだちをいただいたりすると、大ぶりのお皿に移してしまいます。見た目もきれいに。お客さまにお分けすることもあります」。
●“なにも入っていない棚”ですっきりをラクにキープ
棚のすみずみまで目いっぱいものを詰め込むと、少しでもものが増えたときに散らかる原因に。なぜなら、余白を確保しておかないと、急きょものが増えたときにものを収めることができないから。結果、カウンターや床に置かざる得なくなるからです。門倉さんのお宅では、ワークトップの上の棚の一部に、なにも入っていないスペースを確保。「一時置きや、料理教室のときに準備する材料を入れたりするのに使っています」。
●しまい込むための工夫ではなく使いやすいための工夫をする
多くのものをしまえるように工夫して収納しても、結局使わなくなってしまっては意味がありません。「必要なものだけに数を絞り、使う場所の近くに、使うときのことを考えて収納します」。
水と一緒に使うことの多いザルとボウルは、野菜を洗うときに取り出しやすいようにそれぞれ重ねてシンク下に
ヘラや菜箸など使用頻度の高いツールだけは、すぐ使えるようカウンターに出して収納。こちらは火と一緒に使うのでIHクッキングヒーターの横に置いています
キッチンのドアにかけたエコバッグは、リサイクルに回すペットボトルなどの置き場に
レンジ台の斜め上にある棚に収納した調味料。回転台を利用することで、奥のものが取りやすくなっています。これがもしも取づらいとなると、結局その調味料は使われなくなりムダになることに
●キッチンのものを買うときは、よく考えて条件にぴったり合うものを
キッチンのものを買うときは、置く場所やしまう場所の条件をよく考えることが鉄則。「たとえばわが家では、キッチンのゴミ箱を、ワークトップと同じ高さで、上にものが置けるよう横に開くタイプという条件で選んでみました。リビングからも見える位置なので、すっきりしたデザインのものにしたかったのです」。条件を満たさず、中途半端なもので妥協してしまうと、結局使い勝手が悪かったり、台所仕事が楽しくなくなったりして、キッチンが快適な場所でなくなってしまいます。これが家事効率の低下につながることに。安いから、などという基準はおいておき、自分を物差しにして、ものを選ぶといいでしょう。
【料理研究家 門倉多仁亜さん】
結婚後、夫とともにロンドンへ行き、ル・コルドン・ブルーにて料理を学ぶ。帰国後は料理教室やドイツのライフスタイルに関するセミナーなどを行う毎日。著書に『
タニアのドイツ式キッチン―合理的であたたかな、料理と台所のつくり方』(講談社刊)ほか多数。