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矢部太郎さんが「大家さん」の次に描いたのは家族。 伝えるのが恥ずかしい気持ちを漫画に

2021.07.13

最新エッセイ漫画『ぼくのお父さん』で、絵本作家である父親を中心に自身の子ども時代と家族を描いた、芸人で漫画家の矢部太郎さん。大人になって本作を描いたからこそ気づいた父親のいろいろな姿や、現在のご家族との関係についてお話を伺いました。

顎に手を置く男性
芸人で漫画家の矢部太郎さんにインタビュー

矢部太郎さんインタビュー。大人になって気付いた父親以外のお父さん

――本作では、子どもの目線から父親や家族について描かれていますが、子どもの頃と大人になってからで、父親に対しての印象は変わりましたか?

「子どもって、父親のことは“お父さん”として見ているから、そうじゃない部分ってあんまりわからないですよね。たとえば自分の友人がお父さんになったとしても、僕はその相手の友人としての面しか知らない。でも、僕の知らない部分で、彼にもお父さんとしての顔がある。そういう、家族は見ていないひとりの若者としての顔が、あの頃のお父さんにもあったんだな、という当然の話なんですけど、子どもの頃はそこまで思いがなかなか至らない」

――子どもの頃は、親は絶対的な大人だと思いがちですが、そうではないことに気付いたと。お父さんに対しての印象はどのように変わりましたか?

「人間だれでも場面場面によって状態が違うわけですし、『お父さんだからお父さんらしくなきゃ』みたいなことって全然必要ないんだなと思えるようになったかもしれないですね。

当時は、お父さんとプールに行くと、お父さんが迷子になったりして、『お父さんなのになんなんだよ』って思ってたんですけど、僕だって今も普通にスマホでグーグルマップを調べていても迷子になったりするし、そりゃ迷子にもなるよな、ってわかるようになった。

父親以外のお父さんの顔を知って、たしかに印象は変わりましたが、どう変わったかはちょっと言語化できないですね。だから、本作もわからないから、わからないまま描きました」

漫画1
『ぼくのお父さん』より引用

――本作を全部読んで、お父さんから感想はありましたか?

「『つくづく変なお父さんだと思いました』って言ってましたね。この本の中では野菜作りに熱中していた父ですが、今は俳句にはまっていて、突然一句よんだりしています」

●母親は本の感想よりもジュースの薄さが気がかり?

――タイトルは『ぼくのお父さん』ですが、この作品の中にはお母さんやお姉ちゃんという父親以外の家族も登場しますね。お母さんはどんな存在でしたか?

「この本を読むとわかるように、僕の家はやっぱりお母さんがいたから、すべてが成立していたわけで、お母さんの存在はとても大きかったです。でも、今回の作品も『ぼくのお母さん』であってもよかったはずなのに、そうならなかった。そういったことも自分のなかで気持ちの整理ができない部分があったので、父親だけでなく母親や姉のことも描きたかったというのもあります」

――作品の中でお母さんが矢部さんの散髪をしたり、編み物をしたりする場面が印象的です。

漫画2
『ぼくのお父さん』より引用

「実際はもっと本格的な機織りの機械が家にあって、母はその機械でガシャンガシャンと大きなものも自作したりもしていたんです。だから、今住んでいる家にも母親が織って送ってくれた敷物や布がたくさんあります。あとは勉強も好きな人で、放送大学を卒業したり、中国語を学んだり、そういうところは自分にも影響しているのかな、と」

――矢部さんもNHKで『中国語講座』に出演されていましたね。お姉さんとの関係はどうでしたか?

漫画3
『ぼくのお父さん』より引用

「姉とは6歳違いなのですが、年が離れすぎているから、激しくけんかするということはありませんでした。ただ、姉と子どものころのことを話していたら、スーパーのレジの人をスケッチしていたら怪しまれて警備員さんを呼ばれちゃった話やセミやヘビの抜け殻を集めていた話など、僕が覚えているよりも強烈なお父さんのエピソードを覚えていたので、本作を出す前にもっとお姉ちゃんに聞いておけばよかったな、と後悔しました」

――矢部さんの作品に対して、お母さんやお姉さんはどんな反応をされているのでしょう。

本3冊「とくになんにも。母も姉も、終始なにも言わないですね。父親も絵本作家だったので、本を出すことが、そんなに特別ではない感じなのかもしれないですね。先日、家族で食事をした時に僕の本の話題になった時も、お母さんは少しもその話に触れず飲んでいたジュースについて『薄くない?』って言っていたくらいです。あの家で、お父さん以外僕の本を読んでいない可能性は全然ありますね」

――最後に、大人になってから、家族の関係は変わったと思いますか?

本を開く様子「変化はあると思います。そういう変化も含めて、家族への気持ちを漫画に描きたいなと思ったり、描いているうちに思っていたことが漫画になっていることに気づいたりしている。家族への気持ちはなかなか本人に伝えることができませんが、もし読んでもらえたら、少しは伝わるかもしれないですね」

<撮影/山川修一、取材・文/六原ちず>

【矢部太郎(やべ たろう)さん】

1977年生まれ。芸人・マンガ家。1997年に「カラテカ」を結成。芸人としてだけでなく、舞台やドラマ、映画で俳優としても活躍している。初めて描いた漫画『大家さんと僕』で第22回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。他の著書に『大家さんと僕 これから』『「大家さんと僕」と僕』(共著)がある。最新刊『ぼくのお父さん』が発売中(いずれも新潮社刊)

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