ユザーンさん自ら書籍化。とにかくおいしいベンガル料理とは
ESSEonline編集部
2019.06.26
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インド料理がひそかなブーム。本格的なカレーやビリヤニ(スパイスとお肉の炊き込みご飯)が食べられるお店が増えています。

とはいえ、「ベンガル料理」という言葉にピンとくる人はまだ少ないのではないでしょうか。インドの西ベンガル州からバングラデシュにかけて広がる地域(ベンガル地方)の料理で、淡水魚やマスタードを多用することが特徴です。

このたび日本で約20年ぶりに出版されたベンガル料理のレシピ本『ベンガル料理はおいしい』(伊藤総研+NUMABOOKS刊)は、なんとインド人でも料理家でもなく、ミュージシャンが作・監修した本。
出版に至った背景や、知られざるベンガル料理の魅力を、監修者であるタブラ奏者・ユザーンさんに伺いました。

タブラ奏者・ユザーンさん
ユザーンさんにベンガル料理の魅力を聞きました

ユザーンさんが語るベンガル料理の魅力。簡単ではないけど本当においしい

ユザーンさんは、国内随一のタブラ(北インドの民族楽器)奏者として、坂本龍一さんをはじめとするさまざまなミュージシャンと共演し、各地の音楽フェスに引っぱりだこ。
その一方で、おいしいものに目がないことでも知られ、インスタグラムはカレーの写真ばかり。公式サイトのお問い合わせフォームには、「お問合わせ、おいしいご飯屋さん情報はこちらへどうぞ。」という一文もあるほどです(ちなみに、「お店情報だけでなく、お仕事の依頼も送ってください」とのこと)。

ベンガル料理
マトンのビリヤニ(『ベンガル料理はおいしい』より)
そして、著者の石濱匡雄さんは、シタール(北インドの弦楽器)奏者でありながら、不定期でカレー料理教室も開いているほどの料理の腕の持ち主。
ユザーンさんは、かねてから石濱さんのベンガル料理を愛好しており、自ら出版社に打診し、本書の出版が決まったのだとか。

「この本をつくった理由ですか? 石濱さんのつくるベンガル料理がとにかくおいしいからです。今までは食べたくなるたびにつくり方を教わっていたのですが、毎回メールしてレシピをもらうのも彼に悪いなと思って。正直なところ僕もちょっと面倒ですし(笑)。レシピをひとまとめにしたものが欲しかった。そんな、とても個人的な欲求からでき上がった本です」

ベンガル料理はダール(汁物)からスタートし、野菜、魚、肉、デザートとコース料理のように順に食べていくスタイル。また、インド料理といえば、ナンというイメージがありますが、主食には長粒米(バスマティ)が使われています。

長粒米
サバのマスタードカレー(『ベンガル料理はおいしい』より)
「鯉の頭と豆のスープ」「ジャガイモのケシの実煮」「チキンのジョル」など、想像力をかき立てられるレシピが並ぶなか、ユザーンさんのイチオシは「サバのマスタードカレー(ショルシェ・マーチ)」。
ベンガル料理を代表するメニューで、マスタードと青唐辛子がさわやかな辛味を運んでくる、これからの季節にピッタリな料理です。ただしレシピをみると、青唐辛子やポピーシード、ニゲラシードなど、普段目にしない材料が目につき、ちょっと尻込みしてしまうかもしれません。

「たしかにちょっとハードルが高そうに感じるかも。でも、とにかく食べてみてほしい料理なんです。きっとベンガル料理が大好きになっちゃいますよ。聞いたことないような珍しいスパイスも、今はインターネット通販で簡単に手に入るので、ぜひチャレンジしてもらえたら嬉しいです。現地では淡水魚を使うことが多いですが、サバやアジのような青魚でもおいしく仕上がります」

また、ベンガル料理に挑戦するにあたり、ぜひ買ってほしい材料としてあがったのがバスマティライス。

「スパイスは一度使ってそのまま…ということも多いですけど、バスマティライスを買ってしまえば、きっと最後まで使いきろうとすると思うんです。日本人は、お米を大切にする国民性だから(笑)。5kgのバスマティがなくなる頃には、レシピを見なくてもつくれるようなベンガル料理のレパートリーが身につくかもしれませんよ。インド料理だけでなく、タイ料理や中華料理にも合いますしね。なにか料理をつくろうと思ったときに、日本米以外にも選択肢があると食生活が豊かになると思います」

日本米以外にも選択肢があると、楽しいと思うんですよねベンガル料理のレシピは、調理工程も「スパイスをぬるま湯に浸して1時間」「肉を3時間から一晩寝かせておく」など独特。近年ヒットしている「時短レシピ本」とは、まるで正反対です。

「簡単にできる、みたいな打ち出し方の料理本ではないんですよね。ただ、おいしい料理を紹介しているだけ。豆を水に浸したり、タマネギを炒める時間や肉をやわらかくする工程も必要だったり、ベンガル料理は正直それなりに時間がかかります。でも、スパイスをすりつぶすのは電動ミルを使ったり、調理過程にフードプロセッサーや圧力鍋も導入すれば、飛躍的に時短できますよ。実際、石濱さんも圧力鍋を愛用しています。今回の本にはなぜか圧力鍋のことは書かれてないんですけど(笑)」

レシピを見ないでいろいろつくれるようになる
「シラスと野菜の碗チョッチョリ」など、電子レンジを使用して手軽につくれるレシピも掲載されています(『ベンガル料理はおいしい』より)
ユーモアを交えながらベンガル料理の魅力を語ってくれたユザーンさんですが、「レシピを見ないでいろいろつくれるようになる感覚って、ミュージシャンが即興演奏できるようになるのに近いと思うんです」という音楽家ならではの分析も。

「即興演奏って、最初はなにをしていいのかわからないと思うんですよ。適当にって言われても、みたいになっちゃう。でも、続けていけばいつの間にかできるようになる。料理でも、たとえば和食だったら“だしとみりんとしょうゆ、それに酒と砂糖を適当に合わせて煮物をつくる”みたいなことができる人は多いですよね。そんなふうに、即興的な感覚で完成させられる料理が増えていくのって楽しいですよ。ダールスープとチキンカレーがつくれるようになって、バスマティライスを常備したら、食生活が変わる。食生活が変わると、人生も少しだけ変わると思うんです」

『ベンガル料理はおいしい』は、前菜からデザートまで、食欲をそそる色鮮やかな写真とともに、35品のレシピが掲載されています。ぜひチェックしてみてはいかがでしょうか。

<撮影/北田瑞絵 取材・文/藤谷千明>