妻をがんで亡くした政治家が語る。課題と政治がすべきこと
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2018.11.25

およそ2人に1人が罹患する病気、がん。

2018年3月、25歳だった妻の山下弘子さんをがんで亡くした前田朋己さんは、現職の兵庫県議会議員です。政治はがん患者になにができるのか、語っていただきました。

山下弘子さんの夫・前田朋己さんが語る。がんになった人に対して、政治がすべきこと

政治はがん患者になにができるのか
がんと戦いながら幸せな結婚生活を送った前田朋己さんと山下弘子さん
山下弘子さんは大学在学中の19歳で巨大な肝臓がんが発見され、「余命半年」を宣告されましたが、がん保険のCMへの出演やブログ、書籍を通して、前向きに闘病する姿を発信し続けました。

政治家である前田さんは、弘子さんとの闘病生活があったからこそ、行政からがん患者をサポートしていく活動に積極的に取り組んでいます。

「ひろ(山下弘子さん)がぶつかった課題や悩みを、次の世代のがん患者たちには決して味わわせてはいけない、そんな思いにつき動かされています」

●知らぬ間に失われた弘子さんの「人生のフルコース」

とくに「AYA世代」(adolescents and young adults)と呼ばれる思春期から40歳前後までの若いがん患者にとって、妊娠可能性は大きな問題。

「ひろは結婚や出産といったものを『人生のフルコース』と呼び、それを楽しみにしていました。能力や魅力のわりに野心などをもたない彼女にとって、ほとんど唯一の夢といってもいい。でも、がん治療を行う前に卵子や精子を凍結しておかないと、将来妊娠できなくなってしまいます。ひろはそれを伝えられておらず、知らない間に妊娠することができない体になっていたことに、大きなショックを受けていました」

人生のフルコースその悲しみをいちばん近くで見ていた前田さんは兵庫県議会を動かし、国に対して、AYA世代に対する妊娠可能性の温存や経済支援を働きかけています。

「妊娠可能性については、2017年に、妊娠可能性の消失についての告知とその機能の温存のために適切な処置をうながすガイドラインができました。患者が人生において大切にしたいと思っていることを見逃さないよう、自分たちのような政治家も啓発していかなければならないと考えています」

がん患者は治療だけでなく、妊娠可能性の温存をするのに卵子凍結などで数十万単位のお金がかかります。また、治療の過程で脱毛や皮膚の疾患、乳房の喪失などが起きてしまい、女性にはとくにつらいもの。

「人毛のカツラの購入や乳房再建など、見た目のケアにもお金がかかります。そういう問題に対しても、行政が負担を広く分散して、がん患者の暮らしを支えていく。そういう活動をしているし、今後もしていきたいです」

●3割のがん患者が仕事を辞めている現状

3割のがん患者が仕事を辞めている現状2016年に厚生労働省が行った調査では、がんであることがわかると仕事を辞める人が3割、さらに会社側から解雇される事例も4パーセントほどあるそう。

「行政のなかでも、いろいろな議論があるなかで、明確な答えはまだ出せていません。たとえば、がんに限らず、さまざまな病気やケガによって、自分のスキルだけではどうにもできない経済的な困窮に陥ったときは、行政から大企業などに対して雇用を求めるのも選択肢としてあるかもしれません」

「職場に行かなくてもできる働き方や能力開発も大切です」と前田さん。
「現在はコールセンターのような役割の仕事も、インターネットを利用して自宅でできるようになりつつあります。行政としても、企業の現場でそういう形での雇用をうながす活動に取り組んでいかなければいけないでしょう」

いちばん幸せな時間がんによって大学中退を余儀なくされ、一般的な新卒就職ルートを失った弘子さんを、今も心から愛している前田さん。
「がんだったひろと一緒にいた5年は、僕の人生のなかでいちばん幸せな時間でした」
だからこそ、その情熱は消えることはありません。

●教えてくれた人
【前田朋己さん】

兵庫県議会議員。立命館大学政策科学部卒。大手投資ファンド勤務後、公募で立候補し議員に。著書に、がんで亡くなった妻・山下弘子さんとの日々を初めて明かした『最後の「愛してる」 山下弘子、5年間の愛の軌跡』(幻冬舎刊)

<取材・文/六原ちず>

最後の「愛してる」 山下弘子、5年間の愛の軌跡

19歳でガンを患い、余命宣告を受けた山下弘子さん(享年25)。 病に負けず、全力で“今"を生き抜く姿は日本中の人々に勇気を与えた。