梅雨時期の必需品といえば「傘」。この「傘」という漢字をよく見ると、まさに傘のような形をしています。すると次に気になってくるのは、傘のなかに入っている「人」の文字。そう、小さな人が4人も入っているんです。
漢字や言語に関する研究を行う笹原宏之さんに、この漢字の成り立ちについて教えてもらいました。
「傘」表す漢字はもうひとつ存在していた!だれかに披露したくなる漢字の雑学
でもじつは、傘を表す漢字はもうひとつ存在していました。
今と同様に「サン」のように読み、「糸へん」に「散」という漢字を書いていました。布でできていたのと、雨が傘に落ちて散っているイメージからこうなったのかもしれません。
なかに入っているのは人じゃない!昔は適当に書いていた!?
先ほども話しましたが、「傘」という漢字は六朝時代に生まれた象形文字。傘の形を模したものです。ただし、この時代の傘はいまよりも布を支える骨が多かったのか、シワが多かったようで漢字にもその影響が。
人が4つ入っている部分は、模様のようにシワを複数書くこともあったのです。
それが、簡略化され「×」になったり「メ」になったりを経て、「人」4つに。
雨の日に探して!もっと簡略化されたものも。80歳のお祝い「傘寿」の理由がわかる!
ちなみに、現代の日本でももっと簡略化された「傘」の漢字を見かけることが。雨の日に、駅の売店や雑貨屋で、こんな文字を見かけたことはないでしょうか?
こちらは渋谷駅地下街の傘屋さんで見つけたもの。六朝時代のものと比べると随分と簡略化されています。なんだか、シンプルで現代的な印象を受けますね。
この略し方は戦前から見られました。この略字、漢字で「八十」に見えませんか? このことから、80歳の祝いを「傘寿(さんじゅ)」と呼ぶのです。
漢字だけじゃない!「相合傘マーク」にもこんな違いが
漢字について見てきましたが、なんと落書きなどでよく見られる「相合傘」も今と少しだけ違いが。からかわれたり、からかったり、甘酸っぱい思い出がある方も多いのではないでしょうか。
私は小学生の頃、一筆書きで書いたら「真ん中に線があると別れてしまうからダメ」って女子に言われたなあ。
当時、傘は紙でつくられていて骨が多かったせいか、相合傘にも細かいひだが書き込まれているんですよ。ぜひ写真を拡大して、確認してくださいね。
素朴な疑問から始まった「傘」という漢字についての雑学を楽しみながら、梅雨を乗りきりましょう。
●教えてくれた人
【笹原宏之さん】
早稲田大学社会科学部教授。博士(文学)。金田一賞、白川賞を受賞。「常用漢字」や「JIS漢字」の制定にも携わり、漢字や言語に関して、古代文字からギャル文字、若者言葉まで幅広い研究を行っている。著書に『日本の漢字』、『謎の漢字-由来と変遷を調べてみれば』など
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