くも膜下出血で要介護5。「怒りが消えた」神足裕司さんが書き続ける理由
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2018.05.06
黒ぶちのメガネと蝶ネクタイをトレードマークに、ワイドショーでコメンテーターとしても活躍したコラムニストの神足裕司さん。

2011年9月にくも膜下出血で倒れ、一命はとりとめたものの、左半身麻痺と高次脳機能障害という後遺症を抱える体となりました。
歩くこと、話すこと、寝返りも難しい状態で、要介護度はもっとも重いレベル5。

しかし、「書くこと」への思いは失われることなく、リハビリを続けながら、週3本の締めきりを抱える多忙な毎日を過ごしています。
その原動力はなんなのか? 神足さんにメールで話を伺いました。

要介護認定された神足裕司さん。「シンプルな感情で生きると怒りがそぎ落とされた」

「今のボクだからできること、わかることをお伝えできたら本当にうれしい」――。

これは、今年3月に刊行された神足さんの新刊『コータリンは要介護5 車椅子の上から見た631日』(朝日新聞出版)の冒頭にある一文です。

この本は朝日新聞の連載をまとめたもので、家族との日常やリハビリ、オムツのこと、最新福祉機器の紹介など、神足さんが目にし、体験し、感じたことがつづられています。

神足裕司さん
「本当に『こんなことが?』って思うようなことが不便だったり、逆にとても助かったりする。健康なときは気にもとめなかったことばかり。健常者ではわからなかった世界が見られるんだから、今のボクの身体でいいと思ったこと、よくないと思ったことは、書く意味もあるんじゃないかって思う」

神足さんは、同じような病気や障害を抱える人にとっては代弁者であり、ちょっと先を行く先駆者でもある存在。
その文章は、バリアの少ない社会のためになにが必要なのか、そのヒントを与えてくれます。ときにエールとなって読み手の心に届くのは、つづられる言葉が素直で、優しさにあふれているからではないでしょうか。

実際神足さんは、あまり怒らなくなったそうです。
「『怒り<悲しい』。感情を外に表そうと変換していくと、怒りよりも悲しいのほうが多くなってしまう。どっかに怒りの感情を忘れたみたいだ。

性格が丸くなったのか、達観してしまったのか、考えられなくなったのかよくわからない。たぶん最後のが正解で、ただ、いろいろと考えられないだけなのかもしれない。

人間の感情のいちばんシンプルなところで生きているような気もする。いろいろそぎ落としていくと、最初に『怒り』の感情がなくなるのかもしれない」

今の目標はパラリンピック出場!?

「怒り」の感情はなくなっても、ときに「悲しみ」に襲われます。『コータリンは要介護5』には、こんな文章もありました。

「長く患っていると、何が幸せで、自分がどうしたいのかということさえ、わからなくなる。『最新の医療で命を永らえたとして、それは本当の意味の寿命とは違うんじゃなか』とか、それを含めて『まだ生きていろ』ということなのかとか。心はシーソーのように揺れ動く。そして、今の自分ができることをして命をまっとうしようと覚悟を決める」

「こうなってしまった体を悔いても仕方ない。次のステップに向けて動くのみ。前に進んでいくしかない。けれど、時には地球の底までも落ち込みそうな気持ちになるのだが」

揺らぐ気持ちのなかで、それでもと前に進む神足さん。今春からは水泳を始めました。

水泳「自宅近くの高齢者の水泳施設にある可動床プールは、車いすに乗ったまま入れるんだ。見学に行ったら、『パラリンピックを目指してください!』って言われて、本気にする自分。実際のところ、片麻痺という分類はないから、エントリーはできないんだけどね。今はそれくらいの勢い」

神足さんからのメールには、最後に「あと、ホノルルマラソンにもエントリーしたい」という夢も添えられていました。

大変なことは山ほどある。失ったものを嘆くこともある。それでも、「書くこと」への思いと「好奇心」は変わらず、新しいことに挑戦し続ける神足さん。
この先もずっと、神足さんは車椅子の上からの発見を言葉にし、多くの人を励ましてくれることでしょう。

【神足裕司さん】
1957年8月10日生まれ。コラムニスト。慶應義塾大学在学中からライター活動を始める。執筆活動のほか、テレビやラジオなどでも活躍。2011年9月3日、くも膜下出血に倒れ、現在リハビリ中。闘病以降の著書に、『一度、死んでみましたが』(集英社刊)、『父と息子の大闘病日記』(共著・扶桑社刊)、『生きていく食事 神足裕司は甘いで目覚めた』(共著・主婦の友インフォス情報社刊)。最新刊は『コータリンは要介護5 車椅子の上から見た631日』(朝日新聞出版)

<取材・文/鈴木靖子>

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