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「ご自由にお持ち帰りください」自分もやったら素敵な体験に…<暮らしっく>

2021.05.15

作家・作詞家として活躍する高橋久美子さんによる暮らしのエッセー。
今回は、町で見かける「もらってください」と放出されているものについて、つづってくれました。

第46回「ご自由にお持ち帰りください」

暮らしっく

●ご近所さんが“いらなくなったもの”との出会い

ここ一年、近所を散歩をすると、『ご自由にお持ち帰りください』と書かれたダンボールに食器や雑貨を入れて庭先に出しているのと遭遇する。
「え! これもらってええの。めちゃくちゃかわいい!」
と、ふいに、ご近所マッチングアプリのような出逢いになったりもする。

ガラス食器人のいらなくなったものが、自分がまさに今欲していたものだったり、そうでなかったとしても、人のいらないものはとても魅力的だ。だって、本当に“いらないもの”じゃないんだもの。我が家では使わなかったけど、あなたの家とは相性抜群かもよ? ということだから、まっさらなのだ。
こないだもらった有田焼の小鉢はまだぷちぷちに包まれたままだったし、その前にもらった吹きガラスの器は、眺めるだけでも素敵でヨーグルトやサラダを入れるのにもぴったりだ。

カエルの親子のキーホルダー古いお家の軒先では、毛糸で編んだカエルの親子のキーホルダーを見つけた。家生活でせっせと人形をこしらえては通りかかる誰かにプレゼントしているんだなあ。私はそのカエルの親子をリュックにつけている。会ったことのない人だけれど、朗らかな顔のカエルからは「大変な時代だけど、一緒にがんばりましょうね」というメッセージが聞こえてくるようだ。

●私も「ご自由にどうぞ」をやってみた

いろんな家のいろんなものをいただいていたら、私も何か出してみたい気持ちになってきた。何か出せるものはないなあ。その時、夫が庭でせっせと木々の剪定をしていた。そうだ! これをブーケにして出してみようかな。いつもなら、近所の数件に渡してあとは捨ててしまうのだが、もしかしたら、欲しいと思う人がいるかもしれない。
夕方、どっさり集まった剪定枝を部屋に運び、組み合わせて束ねていく。三角葉アカシア、柳葉アカシア、銀丸葉ユーカリ、パールアカシア…部屋中が爽やかな匂いに包まれる。

ブーケ翌朝、『ご自由にどうぞ!』と書いたダンボールの中にブーケを入れ、門にもいくつか吊るして、ドキドキしながら待っていた。
誰も持っていってくれなかったらどうしよう…。
しかも出したのが月曜の朝とあって、人通りもまばらであった。二階で仕事をしながら、でもブーケが気になって集中できん。時々下に下りて、ブラインドから様子をうかがう。
一時間経過、お、子供とお母さんが見ている。が、通り過ぎてしまった。

昼ごはんを食べていると、今度は幼稚園の園児たちが散歩でワイワイと通りかかった。
「あー、葉っぱが出てるよ。これ先生ほしいなあ」
と男性の保育士さんが興味を示している。でも、散歩途中だからか、御一行は行ってしまった。だ、誰ももらってくれない…。
太陽も出てきて葉がカラカラになりそうだなあ。日陰に移動したり、ポップを加えてみたり、ショップ店員みたいになってきたぞ。

●受け取ってもらえる瞬間が嬉しかった

二時間経過した頃、女性がやってきて真剣に吟味している。いけ、いっとけ~! 門に下げていたブーケが可愛く思えたのか女性は吊るしたのを取ると、隣に置いていた紙袋に入れ、二つお持ち帰りしてくれた。うわー。嬉しいー!
やっぱり、下げているほうがドライフラワーブーケっぽくて素敵に見えるのかも。外に出るとレイアウトを変更してみた。

箱にブーケやがて、わいわいと道路がにぎやかになり、散歩中の幼稚園の御一行が帰ってきた。
「先生ね、やっぱりあの枝がほしいんだよねえ」
「ダメだよ。先生あれは人のものだから取っちゃいけないよ」
「いいんだよ。ほら、ご自由にどうぞって書いてあるからね。教室に飾ろうね」
なんて可愛い会話だろう。先生は紙袋に二つのブーケを入れると
「じゃあ、みんなでこのお家の人にありがとうを言いましょう。せーの」
「ありがとうございました!!」
私はもうたまらなくなって、玄関を飛び出していた。
「あ! 家の人だ!」
と子どもたち。先生たちも気づき、止まって
「ユーカリ、いただきました。園に飾らせてもらいますね。ありがとうございます!」
と言ってくれた。
私は嬉しくて、みんなに「いってらっしゃーい」と手をふった。

その後、いくつかのブーケも誰かの元へと届いて、夕方、私は幸せな気持ちでダンボールを片付けた。捨てるはずだった枝が、誰かの家や幼稚園の教室に飾られるということ。いただくことも嬉しいが、受け取ってもらうことも同じくらい温かい気持ちになるんだ。
人に話しかけることがなかなか難しいご時世だけれど、こういう方法で人と人の思いが通うのも素敵だ。またやってみようと思った。

【高橋久美子さん】

1982年、愛媛県生まれ。作家・作詞家。最新刊で初の小説集『ぐるり』(筑摩書房)が発売。旅エッセイ集『旅を栖とす』(KADOKAWA)ほか、詩画集『今夜 凶暴だから わたし』(ちいさいミシマ社)、絵本『あしたが きらいな うさぎ』(マイクロマガジン社)。主な著書にエッセイ集「いっぴき」(ちくま文庫)、など。翻訳絵本「おかあさんはね」(マイクロマガジン社)で、ようちえん絵本大賞受賞。原田知世、大原櫻子、ももいろクローバーZなどアーティストへの歌詞提供も多数。公式HP:んふふのふ

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