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服も靴下も直して使う。捨てないというこだわり<暮らしっく>

2021.05.01

作家・作詞家として活躍する高橋久美子さんによる暮らしのエッセー。
サスティナブルが叫ばれる今の時代。生まれてからずっと「捨てないこと」を大切にしてきた久美子さんが、実際にやっていることについてつづってくれました。

第45回「捨てずに縫ってみる」

暮らしっく

●ようこそ、捨てない世界へ

捨てない生活をして39年。100均の洗濯ネットだろうと、無印のブラウスだろうと、破れたものは平等につくろってやる。「もう捨てても大丈夫ですよ~」という声が布から聞こえるまでは使いたおす。
〈3年間着なかったものは捨てる〉なんていう流行りの言葉に流されることなく、着ない服は5年でも10年でも寝かし、日の目を浴びるときを待ってみる。漬け物ならぬ、漬け服だ。昔はイマイチだった服が、ヘビロテに変わる瞬間は必ずやってくるもんだ。もちろん、こりゃもう私の年では着られないわというものもあって、そういうのは妹や若い子に着てもらう。

10年間着倒して、襟元が破れてしまった無印のブラウス。でも肌心地が気に入ってるんだよなあ。そうだ、レースをあしらってみようかなあ。裁縫箱の中からアンティークレースを取り出し、どれがいいかなあと襟元に合わせ、まち針を打つ。大事なのは恐れないこと。少々コショウだ! の精神で前進あるのみ。さあ縫うべし。
45分経過。ほら、こんなに可愛く生まれ変わりましたよ!

襟元そんな風に、ものを大事にするようになったのは、ものを大事にする両親や祖父母を見て育ったからだと思う。かわいい包み紙やリボンや空き瓶を、祖母も母もストックしていた。近所の人にちょっとしたお返しなんかをするとき、その紙で包んであげると一気に素敵になった。そういうさりげない丁寧さがいいなあと思った。
だから、私もついつい箱とか包み紙をストックする癖がついてしまった。確かに引き出しは紙でえらいことになっているが、ブックカバーや自分だけの手帳を作るのも楽しい。

女性そうそう、小学生の頃は、母や叔父が子どもの頃にしていたというギンガムチェックのマフラーを巻いて学校へ行っていた。一周回って、かなりいかした小学生だったと思う。
同じように、祖母や母が私達のために編んでくれ幼少期に着たセーターや、私達がお気に入りで着ていたジャンパーを母は大事にとっていて、今姪っ子たちが着ている。レトロでいかしている。「昔のものは品がいいねえ」なんて話しながら、母も姉も服も嬉しそう。「これ昔おばちゃんが着てたんよ」と言うと、姪っ子たちも愛着を持ってくれる。

捨てることが流行っていた2010年代は、一体どうしてこんな世の中になってしまったんだろうと、明治生まれのおばあちゃんみたいにぼやいて過ごした。部屋中のものを捨てるTV番組を見ながら、「もったいないなあ」と悲鳴をあげた。
そして、ついに時代が私に追いついた。やっと、SDGsとか、サスティナブルなんて言葉がオシャレ気に飛び交うようになったのだ。やっときたかー。ようこそ、捨てない世界へ!
地球のためにもそうだし、工夫して生活することはとても楽しいことだよ。

●破れた靴下を味があるように直すのも楽しい

お気に入りのブラウスの破れた襟に、レースを一針一針縫う。とっても良い時間だと私は思う。こんなに神経を集中させ手先を使う事は現代の生活ではもうない。その所作の一つ一つを美しく、愛おしく感じる。

靴下同じように、破れた靴下を繕うときも、ただ穴を塞ぐだけでなく、ちょっと遊んでみる。妹がプレゼントしてくれたシルクの五本指靴下が、時を経て盛大に破れたので、ただ縫うだけではなくて、全然違う色のあて布をしてみる。よく体を支えてくれているところは、表と裏に二重の布で縫う。
元々くるぶしまでしかなくて少し不便だなと思っていたので、夫の破れた靴下の足首部分を切り取って縫い付けてみることに。普通に“並縫い”で縫ったところ、あれ?? 足が入らない!? なるほど、靴下って伸縮する優れものなんです。大きな足をくぐらせ、きゅっと締まって足首にもフィットする。並縫いだとその伸縮を止めてしまうんだね。ほどいて、“まつり縫い”にやり直し! ああ、家庭科の授業を思い出す。先生はいない。失敗から学習する。
まつり縫いにすると足が通ったぞ! 一つ一つ、試してみることで生活の知恵がついてくる。

立った靴下「何これ、なんかすっごいね!」
と、サイボーグみたいな靴下を見て笑っているこの夫も、自分の破れたズボンやシャツを静かにちくちく縫って着る人である。

お気に入りのチベットの冬用ソックスも大胆に破れていたので、しっかりとあて布をして縫ったら、まだまだいけますよと言っている。何箇所も虫に喰われてしまったメリノウールのインナーも、これは丁寧に半日かけて縫って直した。ふう、また来冬もよろしくね。防虫剤忘れずにね。それから取れたボタンを付け替えるとき、あえて赤い糸でぬったりする。元に戻すことだけでなく、さらに味をもたせてみるのもいい。

学生の頃は裁縫が苦手だったし、今だって得意とは言えない。けれど、やってみれば、この10本の指は一生懸命に働いてくれる。
「あんたが裁縫できるようになるとはねえ。生活をしていけば何でもできるようになるもんだね」と母も驚いている。本当にその通りで、学校より生活の中で習得することの方が大きいと大人になって気づく。生活は私を成長させ続ける。
ボタンをつけかえ、ほころびを繕う。汚れや傷跡を捨ててなかったことにするのではなく、私の歴史の一部として讃え、また生活を共にしていきたい。

【高橋久美子さん】

1982年、愛媛県生まれ。作家・作詞家。最新刊で初の小説集『ぐるり』(筑摩書房)が発売。旅エッセイ集『旅を栖とす』(KADOKAWA)ほか、詩画集『今夜 凶暴だから わたし』(ちいさいミシマ社)、絵本『あしたが きらいな うさぎ』(マイクロマガジン社)。主な著書にエッセイ集「いっぴき」(ちくま文庫)、など。翻訳絵本「おかあさんはね」(マイクロマガジン社)で、ようちえん絵本大賞受賞。原田知世、大原櫻子、ももいろクローバーZなどアーティストへの歌詞提供も多数。公式HP:んふふのふ

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