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単身赴任先で突然死した夫。 東京に一緒に帰ろう… 最後の2人旅

佐藤由香
2020.11.18
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家族が遠方で亡くなってしまったとき、自宅への移動はどう行うのか。

ESSEなどさまざまな雑誌で活躍するライターの佐藤由香さん(52歳)は、新型コロナウイルスで緊急事態宣言真っただなかの今年の5月に、単身赴任中だった夫(当時56歳)が突然死するという経験をされました。

夫が赴任先の自宅で倒れているという連絡を受け、東京の自宅から800km以上離れた現地へ急行し、安置されていた警察署で対面を果たした佐藤さん。今回は、遠方で亡くなったご主人をどうやって自宅に連れて帰ったのか、それまでどんな時間を過ごしたのかについてつづっていただきました。

コロナ禍で棺を飛行機に乗せて連れて帰りたい。航空会社に確認すると…

飛行機
亡くなった夫と飛行機で約800kmを移動(※写真はイメージです)

単身赴任先の自宅で亡くなった夫(死因は致死性不整脈の疑い)と警察の安置室で対面を果たしたあと、訃報の連絡や貴重品の確認、葬儀社、菩提寺への連絡など現実的な問題がどっと押し寄せてきました。

いちばん大きなことは、夫をどうやって東京に連れて帰るかです。わが家は夫婦2人家族。私は東京で仕事しながら、月に1回夫の赴任先に通う二重生活を10年間続けており、夫の母も東京にいます。

現地で荼毘に付してお骨を持ち帰るのが一般的なのかもしれませんが、夫の母の気持ちを思うと、やはり顏を見せてあげたい。棺のまま運びたいけれど、コロナにより移動自粛要請が出ていた時期で、800km以上の移動ができるのか。そもそも、何日かかるのか。このご時世ではムリかもしれないけど、ダメもとであたってみようと決断しました。

一夜明け、夫の会社の人たちが手分けして葬儀社のあたりをつけてくれ(葬儀自体は東京でするつもりでしたが、空港までの搬送とそのための棺の準備に現地の葬儀社が必要だったのです)、私は朝いちばんで航空会社に電話をかけ、棺が運べるかを聞きました。

A社はコロナ禍の減便や機材の関係で難しく、B社は条件次第で可能という回答。航空会社、赴任地の葬儀社、引き渡しする東京の葬儀社、それぞれの担当者と何度も電話でやり取りした結果、この日の午後になってようやく乗せられる段取りがつきました。
よかった! これで東京に連れて帰れる!

カーゴ(航空貨物)の担当者によると、その空港から飛行機に棺を乗せるのは年に一度あるかないかのことなのに、私のあとに同様の申し込みがもう一件あったそう。
こんなに重なるとは、と驚かれていましたが、人生なにが起こるか本当にわかりません。
ちなみに、夫のケースでは搬送費用は5万円ほど。陸送なら往復100万ともいわれていたので、飛行機に乗せられなければ東京への搬送は断念するところでした。

●大勢の弔問客と話してわかった、夫の暮らしぶり

道路と木々
出発までの一晩は現地の葬儀社の会館で過ごすことに(※写真はイメージです)

準備の関係で搬送は結局翌日の夕方便になったため、私と、この日に到着した夫のきょうだいたちは一日近く時間をつぶすことになりました。
警察にいた夫のお迎えを葬儀社にお願いし、会館の一室を用意してもらっていったん棺を安置。私たちも会館に向かったのですが、ぼんやりと夫のそばにいるのかと思っていたら、会社の人たちや、趣味で知り合った方が続々と弔問に来てくれたのです。

突然のことにもかかわらず、遠くの支店から何時間もかけて車で来てくれた方。室内が密にならないように、人の整理をしてくれた方。皆さんが、いろいろな形で夫を偲んでくれているのがよくわかりました。

枕飾りが置かれた小さな和室で、初めて会う人たちから、夫の話をたくさん聞きました。
職場でどんなふうだったか、最近はなにをしていたか、普段どんな話をしていたか。私の知らない夫の日々の生活が浮かび上がってきます。
「カラオケでよく熱唱してましたね」
「ゴルフも豪快でしたね。あと、声が大きくて。会社のすみまで聞こえる声で話すものだから、内緒話はできませんでしたね」
なんて笑い話も。

「口うるさく、細かいこと言ってませんでしたか?」
「そんなことないですよ。優しくて、大らかで、明るくて。みんな大好きでした」
みなさん、目を赤く腫らしながら、そう仰ってくれました。

いつだったか、夫に文句を言ったことがあるのです。
「そんなに小言ばっかり言ってると、部下に嫌われちゃうよ」
「面倒くさいこと、いつも部下に頼んでるんでしょう。少しは自分でやりなさいよ」
夫は「え~。そんなことないよ」と涼しい顏で返していましたが、なにも知らなかったのは私の方。夫は、皆に愛されていました。

家でテレビを見ながらゴロゴロしている姿と、会社での姿が違うのは当たり前なのにそんな憎まれ口をたたいてしまってゴメンね。会社の人と仲よくできて、幸せだったよね。

いろいろな方と話ができたこの時間、私には神さまからのギフトのように感じました。56年という太く短い人生だったけど、夫は毎日を楽しく生きたのだと思えたのです。

●夫と私、最後の2人の旅行

いよいよ空港に向かう時間になり、私は夫の棺とともに霊きゅう車に乗りました。

「空港に向かう前に、会社の前を通ることはできますか?」

ふと思いついて運転手の方に言ってみると、ちょうど通り道とのこと。夫が大好きだった会社に、お別れをする時間がもてました。会館に来られなかった方が表で待っていてくださり、皆さんにご挨拶。

空港に到着し、無事に棺の引き渡しを終えると、ロビーにも見送りに来てくださった方がいました。
この地に赴任した2年前は知り合いもいなかったけれど、惜しんでくれる方が大勢いて、ご縁のあった人が私を励ましてくれる。ただ、ただ、感謝するばかりです。

夫と飛行機に乗るのも、これが最後。
結婚して20年、2人で本当によく旅行に行きました。ゴールデンウィークや年末年始など長い休みには、ちょっと奮発して海外に。単身赴任をしてからは、夫の住む地域をあちこちドライブ。子どもがいないゆえの楽しみではありますが、お互い忙しく、会う時間が限られているからこそ、2人で楽しむ時間をできるだけつくるようにしていました。

ニュージーランドの景色
1年前のGWに行ったニュージーランド。
念願の海外でのドライブを実現できたいい思い出

いま思うと、無理をしてでも旅にたくさん行っておいてよかった。
忙しさにまぎれて「いつか」「そのうち」と、あと回しにしてたら、きっと後悔していたでしょう。人生は、100年時代というほど長くないのかもしれません。

「あっという間だよ! やりたいことは早くやれよ」
向こう側から、夫がいつもの大きな声で叫んでいるような気がします。

【佐藤由香さん】

生活情報ライター。1968年埼玉県生まれ。編集プロダクションを経て、2011年に女性だけの編集ユニット「シェルト・ゴ」を立ち上げる。料理、片づけ、節約、家事など暮らしまわりに関する情報を中心に、雑誌や書籍で執筆。