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40代女性がぶつかる壁。「明日死ぬかも」が大袈裟じゃない理由

2020.02.13
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更年期障害への不安、自分や周囲の人々の死、加齢する体と変わらない心…。
40代を迎えた女性には、若い頃には見えなかった“壁”の存在が立ちはだかると言います。

そんな“40代の壁”と向き合う女性たちを軽やかかつ暖かく描く話題の漫画『あした死ぬには、』。ここでは、自身も40代女性である作者の雁須磨子さんにお話を聞きました。

漫画「え? 苦しい」
健康や仕事、人間関係に揺れる女性たちを描いた『あした死ぬには、』((C)雁須磨子/太田出版)

40代の「死んでもおかしくない」は30代とは全然違う…雁須磨子さんインタビュー

「この先いったいどうなるの…死ぬのも怖いが生きるのも怖い」。
そう胸の内でひとり呟くのは、「このマンガがすごい! 2020」オンナ編第3位にランクインした『あした死ぬには、』の主人公・本奈多子(ほんな さわこ)。

42歳を迎えた彼女は、夜中にいまだかつて経験したことのない体調不良に襲われたことで、急激に“死”とこれから先の人生を意識します。

●40代の壁を越えると体は元には戻れない

――本作では“40代の壁”がテーマの1つですが、その壁は具体的にどんなものなのでしょう?

「20代から30代になるときも壁の存在は感じましたが、40代になるときは本当に『不可逆!!』という感じがしました。

30代のころも、『痩せなくなるらしいよ』みたいな話はあったけど、まだ運動すれば大丈夫なところもありました。でも、40代はもう本当に肉体的には戻らないんですよね。

40代って壊れやすいんですよ。徹夜なんてしてしまったら、戻らないシワとかが一発でできる。視力だって回復しなくなるみたいな。
一度だけですが、自分も40代になってから不整脈になって、『もう死ぬかも、死んでおかしくないんだ』と本気で思いました。

でも、一方で死んでもいいように暮らしていこうと考えるようにもなったんですね。『今できることをやろう』と一生懸命になれる。20代や30代のころは、『もうちょっとあとでもいいや』みたいな気持ちでした。そういったことを、漫画として描きとめていけたらと思って始めたのが、『あした死ぬには、』です」

●症状を分解していけば更年期障害も怖くない

漫画「40肩とかではないんですかっ」
(C)雁須磨子/太田出版

――作中の更年期障害の描写もリアルです。更年期障害って、だれもが名前は知っていて、冗談などでは口にされるのに、実態の症状はわかりにくい。なので、この漫画を読んだことで不安が減る人もいると思います。

「私も、自分がなる前はどういうことが起きるか知りたかったけどけど、調べてみても、『更年期障害に効く!』みたいな情報はあっても、具体的に『更年期になると、なにがどうなるのか』っていうのは意外とない。

更年期障害をはじめ、病気や不安はからかいや冗談にせず、分解していくことが大切だと思います。たとえば、生理前に起きるPMS(premenstrual syndrome:月経前症候群)は最近になって世間的に認知されたけど、症状に名前がついたことによって救われた人って、すごく多いはず。
こういう原因があって、こういう症状があって、その症状なら、こういう治療や対策で治るし…ということを分解できるようになったのがいいんでしょうね。

これ! という正解は結局ないんですけど、作中で『不調があってもおしまいじゃないよ。大丈夫、大丈夫』『これは病院に行ったほうがいいかもよ』ということを描いていけたらと思っています」

●体の保証期間がきれるから、病院で定期的なメンテナンスを

――雁さんは別のインタビューで、「40代は『保証期間がきれた状態』」とおっしゃっていました。保証期間のあるうちは自分の力だけで回復できたけれど、それができなくなるということでしょうか?

「そうですね。若いころ、私は病院にはほとんど行かなかったんです。ただの風邪くらいなら、薬局で市販の薬を買って治せばいいやって思って、結果、風邪を引きずったりする。

けど、40代になってからは、やっぱり病院のお世話になることが多くなってきて、そうすると『お医者さんに診てもらえば治る!』ということが体感できる。でも、そういうことに、20代、30代ではなかなか気づけない。

人間ドックなんかも、昔は一大イベントだったけど、今は一年間保障のような感じ。そうやって今の状態を確かめに行くというのが、いいことなんだな、気分がよくなることなんだな、とわかって、メンテナンスをちゃんとするようになりました」

――病院に行き慣れていないと、まず何科に行っていいかもわからないですよね。ちょっと心臓が痛い気がするけど、これって内科に行って怒られないかな? とか。

「まずは内科に行って、どこを受診すればいいのか教えてもらえばいいんでしょうけど、そういうこともわからない。それに、大きい病院に行くと、待ち時間が長すぎて、いやいや今日はもう無理…みたいなこともありますよね。でも行き慣れてくると、だんだん『午後はすいているんだな』とかもわかってくるんです」

●「具体」のやり取りが人を救う

漫画「あー同じくらいの年の子に会って話したーい」
(C)雁須磨子/太田出版

――そうやって内側のことがわかってくると、自分の中のハードルが下がっていきますね。

「なんでも具体を知りたいんです。たとえば、『漫画家になるにはどうすればいいですか?』みたいな質問に『やる気さえあれば、どんなことが起こっても耐えさえすればなれるよ』というアドバイスよりも、具体的になにを経験してどこに行けばその職業につけるかという情報が知りたいじゃないですか。
言ってみれば『ESSE』も具体の宝庫ですよね。具体は人を救うんですよ。

だから、具体を人間同士、お互いにやり取りしあえばいい。今一緒にいる人たちで、それぞれがもっている具体をやり取りする。別の経験を積んできたのだから、もっている具体も違いますよね。そうやって生まれるものを大切にしたいと思います」

さまざまな偶然の重なりの結果、つながった人と人との結びつきを大切にし、その一瞬の輝きを描き続けてきた雁さん。『あした死ぬには、』のなかでも、立ちはだかる40代の壁に向き合う主人公の背中を優しく支えるような、人と人との交流がキラキラと光ります。

年を重ねることについて、さまざまな不安を感じたときにこそ、手を伸ばしたい作品です。

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<取材・文/六原ちず>

【雁須磨子(かりすまこ)さん】

1994年に『SWAYIN’ IN THE AIR』(「蘭丸」/太田出版)にてデビュー。BLから青年誌、女性誌まで幅広く活躍し、読者の熱い支持を集めている。最新刊は『あした死ぬには、』(太田出版刊)第2巻

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