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ミカン農家の娘だからわかる、おいしい個体の見分け方<暮らしっく>
2019.11.15
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作家・作詞家として活躍する高橋久美子さんによる暮らしのエッセー。ミカンのおいしい季節ですが、今回、高橋さんがつづってくれたのは、実家・愛媛で営んでいる、ミカン農家のことです。

第7回「ミカンの季節だ!!」

暮らしっく

●わが家は代々続くミカン農家。帰るたびに時の流れを感じる場所

電車で海沿いを走れば、急斜面にオレンジ色の水玉が広がって、それを見ると、ああ帰ってきたなあと思う。わが家は代々、小規模だがミカン農家である。元々サトウキビ畑が多かった愛媛の我々の地域(東予)が、ミカンの木に変わり始めたのは戦後まもなくだったと祖父が昔話していた。その流れで祖父もサトウキビ畑をミカン畑にしたそうだ。物心ついたときから、11月といえば家族でミカン収穫の季節、斜めがけの布袋を肩から下げて、パチンパチンと木から切り離した実を入れていく。ハサミを握る指のつけ根が痛くなるほどに収穫は続く。

ミカンの収穫の様子母体である木から切り離すとき、少しだけ胸が痛む。でも、しんどそうに枝をしならせている老木を見ると、早くラクにしてやろう。今年もよくがんばったね。と、牛や馬を育てている人と同じような気持ちになる。植物とて同じ、生きている。春に花をつけ、その花の数だけ実をならせる。そういうものを小さい頃から目にしているので、スーパーに並んだ青果にも物語を感じずにはいられない。

肩に下げた布袋はものの数分でずっしり重くなってくる。そうしたら、中を黄色いキャリーに移してキャリが満タンになったら(約20キロ)、軽トラに積み上げていく(ちなみに私はマニュアルの軽トラも運転できるよ)。畑の真ん中で、もぎたてのミカンを食べる。酸味と甘味と青空でいっぱいになる。

甥っ子姪っ子たちも、一緒にやってきて好きにミカンを食べる。皮からかじっている者もいれば、服をびったびたにしながら頬張っている者もいる。小3になった上の甥は、大人と同じようにお手伝いができる。みんなここで育っていくのだなと、時の流れを感じる場所でもある。

●農家だって家族には体にいいものを食べてもらいたい

ミカン畑に来ると祖父のことを思い出す。お墓より、仏壇よりここに来たとき思う。収穫しながら、必ず亡くなったあとミカンの木の下に埋めた犬のジョンの話にもなる。多くの樹木は哺乳類よりも長生きだから、果実は祖父母の生きた証のように思う。

農薬や除草剤、化学肥料を使わずに栽培している。そういうものに頼れば、今の半分の労力で見た目の綺麗な売りやすい果実になることもわかっている。湿気の多い愛媛での自然栽培はなかなかに大変なことで、長雨が続いた年はすぐに虫や病気が発生するのだ。ただ、農家だからこそわかる科学的なものの違和感もあって、今の農法に変わった。

20年ほど前、母が、農薬散布する父の手伝いをしていて体調を壊すことが続いたのだった。大自然の中で作業していて体調を壊すなんて、なにやってんだかと母は思った。そして、食べる人=娘たちの体にも良いわけないよなあと思ったそうだ。そうして徐々に減農薬へと切り替えていった。自分の家で食べる野菜だけ別の場所で無農薬でつくっている農家さんも多い。そういうことなのだ。つくっている人がいちばんよくわかっている。

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