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“捨てられない物”があっていい。あえて捨てない生き方

2019.08.07
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必要がなくなったと判断すれば「捨てる」という選択を私たちは毎日していますが、果たしてそれは本当に”捨ててもいい物”だったのでしょうか?
そう考えるきっかけをくれたのが、作家・作詞家の高橋久美子さん。先月、捨てられない物を展示するというユニークな展覧会「捨てられない物展」を開催しました。

この「捨てられない」という思いに正直に生きることついて、高橋さんにお話を伺いました。

高橋久美子さん
捨てられない”物”への思いを語る高橋久美子さん

捨てることがスタンダードな時代に、振り返りたい「捨てられない」という気持ち

●捨てないと決めるのは本人。“物”があるから自分を振り返るきっかけになります

「捨てられない物展」は高橋さんが今に至るまで何故か捨てられなかった物を展示した展覧会(現在は終了)。少女コミックの付録、学生時代に訪れた初めての海外で買った水のペットボトル、カセットテープ、アメの包み紙など、他人から見たらただのガラクタで、高橋さんにとっても宝物というわけではないもの。でも、どういうわけか捨てられず家や実家に転がっている物を集めた不思議な展示です。

高橋さんが今に至るまで何故か捨てられなかった物
「捨てられない物展」の様子(ご本人提供)
「今回、実家に眠っていた物もダンボール4箱分送ってもらいました。捨てることがスタンダードな時代にこんなことするとは…とみんなに驚かれましたね。たしかに時代に逆行していますもんね。でも、今までまったく忘れていたのに捨てられなかった物を見て初めて思い出すこともあって、そのエピソードで本を一冊書き上げてしまったんです。捨てられない物は記憶のタンクだと思いました」

“物”は懐かしんだり思い出すだけではなく、大切なことを気づかせてくれる存在だと高橋さんは語ります。

「展示会を見て、自分のことを振り返るきっかけになったと言ってくださる人は多かったですね。『私はなんであれを捨てちゃったのかな』と、後悔している人もちらほらいて『なんで捨てたの?』と聞くと、『なんとなく物をためちゃいけないみたいな流れが今ってある』と自分の意志とは別に捨ててしまったようでした。

他人から見て、必要なさそうな物でも、捨てる捨てないを決めるのは本人です。なにを捨ててなにを残すかということはその人の人生の集約だとも思いました。なにを選んで生きているかってことでもある。そう考えたら、いろんな人の捨てられなかった物を見てみたいなと思いました」

●服をワンシーズンで捨てるというのは人生で一度もやったことがないんです

これは捨てよう、これは捨てない。そのシーンにおいて私たちは選択しながら生きています。捨てたことで後悔してしまうのか、もしくはためこみすぎて困ってしまうのか。捨てても同じような物を買ってしまい、同じ過ちを繰り返してしまうのか。読者の皆さんも”物”との向き合い方で悩まれている方も多いでしょう。

「買うときがいちばん重要なような気がします。本当に家に置いていいのか、この先も大切にできるのかって、考えることですかね。私は吟味して買って10年くらいは使い倒すタイプ。服なら直しながら着続けます。祖母から譲り受けた革製品も手入れをしながら長く使ってますし、靴はソールを直して使ったりします。

今は洋服も流行りのものが安く手に入ると思うんですが、私はワンシーズンで捨てて新しいものを買うという行為は、人生で一度もやったことがないなあ。たとえ安くても高くても、自分で気に入って買ったのだから、あんまり無下な扱いはしたくないんですね」

エッセイ集と高橋久美子さん
展示会と一緒に出したエッセイ集『捨てられない物』とともに
ネット通販が普及し、気軽に買い物ができる便利な時代になりました、その後じっくりつき合っていけるかというところまでは買う段階では考えられていないかもしれません。もちろん、時間とともに趣味嗜好が変わってしまうことも生きていればあるそうですが、高橋さんの場合は、簡単に「捨てる」という選択をしないのだそう。

「私も『なんでこれ買ってしまったんだろう』っていうのは時間の流れで出てきてます。そんなときは、うちは三人姉妹だったので『これ、いる人~?』みたいに家庭内フリマをしていましたね。うちの母は裁縫が得意なので、私が着ていた服を姪っ子が着られるようにリメイクしたりしています。形を変えたら二世代にわたって使えるんですよね。そう考えたら、物の寿命って人間の命よりもずっと長い。展示していた竹籠も70年近く前の物ですが竹製品は150年とか使えたりしますもんね! 本来はそうやって受け継がれてきたはずなんです。年季が入った物の美しさ、そういう物が似合う部屋にどんどんなってきました」

●”捨てられない物”があるから今、私はここにいます

現在、東京に夫婦で暮らす高橋さんの“あまった物”を譲るという生活についても教えていただきました。

「東京の庭で小さな家庭菜園をしていますが、たくさん採れたときには、隣近所におすそ分けしてます。実家からたくさん野菜が届いたときなんかもそうしてて、みんな喜んでくれる。同じように『あまったから』『たくさんいただいたから』と、皆さんからもらうこともあって、近所との交流にも”捨てられない物”が活躍してますよ。

最近の『捨てましょう』という流れも、メルカリとかネット上での再利用で少しずつ緩和されてますよね。それでも捨てられている物の多くは壊れていない、まだきれいな物が多い。新しい物もやがて古くなっていきます。だからこそ一緒に年を取れるものを選んでいきたいと思います。私のもとに残っている物は、捨てられずにいるという選択でここまできた。それはつまり愛情なんでしょうね。今、私がいるのも、その”物”があったからこそ。ともに歩んできた“物”の命を使いきりたいという思いがあるんですね」

高橋さんのエッセイ集『捨てられない物』は、ギャラリー芝生の通販にて8月末まで発売中(https://shop.shiba-fu.com/products/list?category_id=14)、9月からは高橋さんのHPにて発売(http://takahashikumiko.com/top)。
高橋さんの新しい連載は、8月9日よりESSEonlineでスタートします。ご期待ください。

<撮影/山川修一 取材・文/ESSEonline編集部>

【高橋久美子さん】

1982年、愛媛県生まれ。チャットモンチーのドラムを経て作家・作詞家として活動する。主な著書にエッセイ集「いっぴき」(ちくま文庫)、絵本「赤い金魚と赤いとうがらし」(ミルブックス)など。翻訳絵本「おかあさんはね」(マイクロマガジン社)でようちえん絵本大賞受賞。原田知世、大原櫻子、ももいろクローバーZなどさまざまなアーティストへの歌詞提供も多数。NHKラジオ第一放送「うたことば」のMCも。公式HP:んふふのふ

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