大雨・台風から家族を守る!水害から逃げ遅れない避難のポイント
谷山宏典
2019.07.06
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全国で200人以上の方が亡くなった「西日本豪雨」が発生したのは、1年前のちょうど今頃。つい先日も、九州南部で災害級の大雨が降り続き、河川の増水や氾濫、土砂崩れなどのニュースが大きく報道されました。

大雨や台風による水害は決して他人事ではありません。災害級の豪雨に見舞われたとき、どうすれば自分や家族の命を守ることができるのでしょうか。

西日本豪雨の被災者や防災の専門家に取材して、今年6月に『ドキュメント豪雨災害 西日本豪雨の被災地を訪ねて』(山と渓谷社刊)を出版されたフリーライターの谷山宏典さんに「豪雨時の適切な避難のポイント」を教えてもらいました。

豪雨時の適切な避難のポイント
『ドキュメント豪雨災害 西日本豪雨の被災地を訪ねて』(山と渓谷社刊)より

逃げることは、じつは難しい。「正常性バイアス」や「同調性バイアス」とは…?

自分が暮らす地域に「災害級の大雨」が降ったとき、自分や家族の命を守るには、一秒でも早く、安全な場所に避難するしか方法はありません。けれども、昨年の西日本豪雨の被災地を取材して痛感したのは、「身の危険を感じたら、安全な場所にすぐに逃げる」という、言葉にすれば単純なことが、じつは極めて難しいという現実です。

避難が遅れる原因はいくつかあります。ひとつは、「正常性バイアス」や「同調性バイアス」といった心理的な要因です。

正常性バイアスとは、簡単に言えば「ある範囲までの異常は『異常』と認識せずに、正常なものとして考えてしまう心理」を指します。テレビのニュースや行政の防災メールで「災害級の大雨が降る」「今すぐ避難してください」とアナウンスされても、「自分のところは大丈夫だろう」となんの根拠もなく状況を過小評価して避難行動を取らないのは、正常性バイアスが多分に影響しています。

一方、同調性バイアスは、周りの人に合わせようとする心理です。西日本豪雨のあとに広島市が実施したアンケート調査でも、「避難しなかった理由」として「近所の人がだれも避難していなかったから」という回答が高い割合を示していました。

家族で避難する場合、親子や夫婦間での意見の相違が、避難を遅らせることもあります。私が取材した西日本豪雨の被災者の中にも、妻は「避難しよう」と言ったのに、夫が「大丈夫」「大したことにはならない」と言って、意見がまとまらなかったという夫婦が何組かいました。

災害心理の専門家は「避難行動は単純に見えて、さまざまな要素が複合的に関わっている」「災害心理学の観点からすると、人はなかなか動こうとしない動物である」と言います。適切な避難はレアケースであり、逃げ遅れることの方が当たり前…。まずはその事実を認識することが、適切な避難行動の第一歩です。

●いつ、どこに避難するか。事前にルールを決めておく

2018年12月の取材時に撮影した、倉敷市真備町地区の末政川決壊地点の様子。豪雨から半年経っても災害の爪痕が生々しく残っていた
では、災害の危険が迫っているとき、どうすれば迅速な避難行動を起こすことができるのでしょうか。取材した中で、私がもっとも可能性を感じたのは、防災科学技術研究所の三隅良平さんが示してくれた、次の「4つの指針」です。

【1】自分が暮らす地域の過去の災害歴や地理的な特徴を知る。
【2】避難行動を起こす自分なりのルール、避難方法をあらかじめ決めておく。
【3】大雨や台風のときには、自分から情報を取りに行く。
【4】あらかじめ決めたルール・方法に基づき、避難行動を起こす。

【1】の地理的な特徴の把握には、自治体が作成し公開しているハザードマップを確認しておくことが、ひとつの方法になります。国土交通省「ハザードマップポータルサイト」 では、全国のハザードマップを閲覧できます。

【2】では、【1】で得た知識に基づいて、いざというときの判断・行動の基準を決めておきます。一口に避難といっても、住んでいる場所や住宅の状況によって、その方法やタイミングはさまざま。川のそばに住んでいるのであれば、氾濫時に家ごと流されてしまうかもしれないので、氾濫の危険が少しでもあれば、すぐに自宅を離れる必要があります。一方、河川から離れた場所で、ハザードマップで想定されている浸水深があまり深くない場合は、大雨の中、無理に家を出て避難所に向かうよりも、自宅の上階に避難した方が安全なこともあります。

避難の方法は「こうすべき」と一律に決められるものではなく、たとえば「避難勧告が発令されたら逃げる」「1日の予想降水量が○○ミリを超えたら逃げる」「土砂災害危険度が『非常に危険』レベルになったら逃げる」と、「自分なりの避難ルール」をあらかじめ考えておくことが重要なのです。

このとき「どこに、どういうルートで避難するか」もポイントです。避難先というと多くの人が自治体指定の避難所をイメージするかと思いますが、指定避難所の中には浸水エリア内や土砂災害警戒区域内に位置しており、水害発生時に避難所として機能しない場所もあります。また、定員を上回る住民が集まってしまい、避難所に入れないということも起こり得ます。

実際、西日本豪雨のときに広範囲にわたって浸水被害を受けた岡山県倉敷市真備町地区では、指定避難所の小学校に定員の10倍超の人が押し寄せて、入れなかった人も多かったそうです。

災害発生時、指定避難所にどのぐらいの人が集まるのかは、予測困難です。体育館などに雑魚寝状態となるため、心身ともに多大なストレスがかかります。小さな子ども連れだと大変なことも多いでしょう。ですので、いざというときには、行政指定の避難所ではなく、災害の危険性が低い地域に住んでいる知人や親族の自宅に避難できるよう、あらかじめ相談しておくのがおすすめです。

●空振りでもいい。大事なのは、まず逃げること

大事なのは、まず逃げること
『ドキュメント豪雨災害 西日本豪雨の被災地を訪ねて』(山と渓谷社刊)
以上の2点を、日ごろから家族で話し合って決めておきます。そして、災害級の大雨の予報が出た、あるいは実際に豪雨に見舞われたときには、【3】と【4】を実行します。

【3】の「自分から情報を取りに行く」とは、行政から警報や避難情報が発令されるのを待つのではなく、スマホやパソコンを駆使して自らリアルタイムの気象情報などを収集することです。雨雲の動きをチェックするには「雨雲レーダー」 、土砂災害の危険度を知るには気象庁の「土砂災害警戒判定メッシュ情報」 などが使えます。

こうした気象や防災に関するアプリやサイトは、いざというときにいきなり開いても見方や操作方法がわからず、使いこなせません。天気は日々の生活にも密接にかかわっているので、日ごろからお気に入りの気象サイトを見る習慣をつけておくことも大切です。

情報を集め、もし【2】の「自分なりの避難のルール」に合致する状況になったら、すぐに避難行動を起こします。

「100回逃げて、100回来なくても、101回目も必ず逃げて」。これは、東日本大震災で大きな被害を受けた釜石市に立つ石碑に刻まれた言葉です。

空振りでもいい。避難しなかった近所の人に、あとから笑われてもいい。災害級の大雨に見舞われたときは、目まぐるしく変化する状況の中、どうしても判断に迷うものです。正常性バイアスなどの心理的作用も働きますし、家族間での意見の相違もあるでしょう。それでも事前に判断や行動のルールを決めておけば、「決めたことだから」とシステマチックに逃げることができるのです。

【谷山宏典さん】
1979年愛知県生まれ。明治大学文学部史学地理学科卒業。大学在学中に体育会山岳部に所属する。編集プロダクション勤務を経て、09年フリーのライターに。雑誌やウェブサイトでの記事執筆、単行本のブックライティングなど、幅広く活動する。著書に『登頂八〇〇〇メートル』『山登りABC 難所の歩き方』『鷹と生きる 鷹使い・松原英俊の半生』『ドキュメント豪雨災害 西日本豪雨の被災地を訪ねて』(ともに山と渓谷社刊)がある。