あえてキッチンの機能を減らしたら料理が格段にラクになった
ESSEonline編集部
2019.06.19
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「ミングル」という、シンプルでユニークな“ごはん装置”が、今SNSを中心に「合理的で使いやすそう」「現代の家庭にぴったり」と話題になっています。
考案者は、スープ作家の有賀薫さん。ご自宅のリノベーションに合わせ、テーブルにキッチン機能を組み合わせてつくったのが「ミングル」です。

この「ミングル」が生まれた背景や実際の使い勝手について、有賀さんに取材しました。

テーブルにキッチン機能を組み合わせてつくった「ミングル」
スープ作家・有賀薫さんが生み出した「ミングル」

有賀薫さんが「ミングル」をつくった理由。今の時代に合ったキッチンを求めて

有賀さんのお宅は、築20年の、もとは一般的な間取りの3LDKの分譲マンション。息子さんが進学で家を離れて夫婦ふたりの生活となり、「住まい方と空間の使い方を根本的に見直すつもりで」リノベーションに踏みきりました。

リノベーション前のダイニングの様子
リノベーション前のダイニングの様子。右の奥がキッチンになっている
「ミングル」が置かれているのは、明るい日差しが差し込むリビング。テーブルのサイズは95×95cm。このわずかなスペースに、中央にはIHコンロが、側面には箸やちょっとした調味料が収納できる引き出しがあります。さらに食洗器を内蔵し、テーブル脇にはシンクをつけてと、「つくる」と「食べる」に関する最小限の機能が備わっています。

有賀薫さん

「『ミングル』とは、入り混じる、混ざる、一緒になるという意味の英語で、リノベーションをお願いした設計士の方との対話のなかで、探してもらった言葉です。リノベーションに際しては、“減築(げんちく)”の考え方にヒントを得ました。よりミニマルに、シンプルにしながら、食生活がより豊かなものになるように。そして家族の誰もが気軽に料理や片づけに参加できるように。この思いをつきつめて、形にしたのがミングルでした」と有賀さん。

シンクで食材を洗い、テーブルで調理して食べて、おなかがいっぱいになったら、使ったお皿は食洗器へ。ミングルが思い起こさせるのは「調理から片づけまでをみんなで体験できる、キャンプのような雰囲気」です。

●「キッチンの方から、みんながいる場所へ出ていけばいいのではないか?」

「ミングル」が生まれた背景には、有賀さんの従来のキッチンへの素朴な疑問がありました。

「キッチンはどの家庭でも、奥まった場所や日の当たらない北側にあり、それは21世紀になった現在でも、基本的には変わっていません。わが家も、今でもミングルの奥にリノベーション前から備わっているシステムキッチンがあります。どこの家庭にもある一般的な台所で、大きいシンク、何口もあるコンロ、しっかりした換気扇と、それはそれで便利なものの、キッチン内には2人以上の人が作業できる空間がないんです。キッチンの閉塞感、多機能すぎること、そして家事シェアしやすい動線を取れないデザインが『もう、時代に合わないのでは?』と気になっていました」

夫婦ともに料理へ参加するのが当たり前になるこれからの時代。「キッチンに入っていけないのなら、キッチンの方から、みんながいる場所へ出ていけばいいのではないか?」と、有賀さんは考えました。

「人と作業が循環できる台所。これからのライフスタイルに即しているごはん装置をつくろうと思ったんです。製作中は、私、夫、建築事務所の方で話し合い、いろんなデザイン案が出ました。それで最終的にみんなが『いいね』となったのが、四角いテーブルに食洗器を内蔵させ、テーブル脇に直径50cmのシンクをつけるスタイル。テーブルの上には、照明つきの換気扇も備えています」

収納料理家という職業上、従来のキッチンも残していますが、ミングルを使ってみて「忙しい現代の家族の食卓では、キッチンはこれぐらいの機能で十分だ」と感じたそう。

「火はテーブル中央にあるIHコンロひとつですし、換気扇もフィルターを使うシンプルなものなので、油が大量にはねるような料理はできません。ただし、鍋ひとつでつくれるような具だくさんのスープを煮て、みんなで分けていただく環境としては最適ですし、中央にフライパンをひとつ置き、野菜やお肉を簡単に焼いたり蒸したりするには問題ありません」

食洗器を内蔵さらに有賀さんのライフスタイルが劇的に変わった! と感じたのが、食洗器とテーブルの一体化。
「食べ終わる→片づける→洗うの動きをまとめると、こんなにラクだったのかと思いましたね(笑)。ミングルでは、使い終わった食器を、みんながその場で食洗器に入れてしまえば、後片づけは終了です」

●既存の台所から要らないモノや動線を抜き取ったらミングルが生まれた

製作費は合計で90万円ほど。でも「アイデア次第でコストダウンは可能ですよ」と、有賀さんは言います。
「私の場合はIHコンロ、換気扇、食洗器にこだわったので、当初の予算の倍近くになってしまいました。さらにテーブルの表面は、防水を考えて木材にモルタルを塗って仕上げています。IHコンロや食洗器の選び方を変える、テーブルトップは木の風合いを生かしたままにするなど、各家庭の暮らしに合わせてコストはさらに下げられるはずです」

有賀さんが「ミングル」をつくった大きな理由に、新しくてより豊かなライフスタイルの提案をしたかったから、ということがあります。

「商業目的からミングルを開発したわけではありません。既存の台所から要らないモノや動線を抜き取り、スープ作家という自分の職業にぴったりな場づくりを追求し、生まれたのがミングル。ミングルを知っていただいて『キッチンは明るいリビングに置いてもいい』『もっとダウンサイジングしたっていい』、そう感じた方が、自身の暮らしに立ち返り、それぞれの豊かな生活づくりのきっかけにしてもらうことが、この新しいごはん装置のいちばんの目的だと思っています」

有賀薫さんのインタビュー第2回「ナスが主役!有賀薫さんの手間を省いたごちそうみそ汁」、第3回「毎日の料理がしんどい人に、プロの料理家が伝えたいこと」も公開中です。こちらもぜひご覧ください。

<撮影/山川修一 取材・文/石井絵里>

【有賀薫さん】
スープ作家。東京都出身。玩具メーカー勤務、フリーライターののち、2012年から朝のスープをつくり始める。2018年に出版した『帰り遅いけどこんなスープなら作れそう』(文響社刊)が、第5回レシピ本大賞入賞

帰り遅いけどこんなスープなら作れそう 帰り遅いけどこんなスープなら作れそう

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