作家・作詞家として活躍する高橋久美子さんによる暮らしのエッセー。
今回は、真夏の火照った体に嬉しい「冷や汁」についてつづってくれました。

第53回「そうだ、冷や汁食べよう!」

暮らしっく
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●冷や汁こそ夏の定番料理

長雨が続いて一気に涼しくなってしまった。長袖を引っ張り出して、このまま秋になってしまうのかしらなんて思っていたら、じわじわと残りの夏が息を吹き返す。そうそう、まだ食べたい夏料理があるのだから、もう少し秋は待ってくださいね。

冷や汁

夏になると食べる私の定番料理が「冷や汁」である。と言っても、子どもの頃から食べてきた郷土料理というわけではない。十年ほど前に訪れた宮崎県で食べて、あまりの美味しさに感動して家で作るようになった。

ご飯には温かいお茶漬けとばかり思っていたが、生野菜を載せて冷たいだし汁をぶっかけ、最後には氷までのせることにとても驚いた。サバ缶や、焼き魚も載せられているが脂浮きすることなく、冷えた出汁に合うのだ。お店や家庭によって具材や味が違うのもいいなと思う。暑い夏の宮崎で食欲も落ちていたが、冷や汁ならぺろりと平らげることができた。こんなに美味しい夏料理があったなんて。

何と言っても、冷や汁の決め手は、いりこだしだ。地元の四国でも出汁といえば、いりこだった。愛媛では白味噌や合わせ味噌が昔からの伝統で、この白味噌といりこの相性がとてもいい。そこに、食欲をそそるすりゴマや薬味が混ぜられているパーフェクトなお汁。

東京に帰ってからも、思い出して作るようになったのだった。特別な材料がなくても冷蔵庫にあるものでちゃっと作れて、さらさらと胃袋に収まる。暑い時期は、毎日のように冷や汁を食べて過ごす。

●冷や汁の作り方

作り方(2人分)は大体こんな感じ。

お野菜豆腐など

まず、いりこ5本と昆布を前の晩に水500ccに漬けて冷蔵庫に入れておく(パック出汁の場合も同様に)。野菜は家に余っている夏野菜なら何でもこいだ。キュウリや、トマトは生のままで使えるし、オクラやモロヘイヤ、ツルムラサキなんかは、さっと茹で冷やしておく。豆腐もあるといいなあ。サバ缶も是非。味噌はあれば白味噌、なければ家にあるお味噌何でも大丈夫です。

ゴマをすりつぶす

すりこぎでゴマをゴリゴリしましょう。ゴマはたっぷりが美味しいです。そこに味噌を大さじ1~2加える。味噌によって塩分が違うので、味見しながら足していってください。

ゴマをスプーンですくう様子

そこに出汁を加えてよく混ぜます。

冷や汁にゴマを入れる様子

昨日の残りの冷ご飯を冷蔵庫から取り出して、丼によそうと、刻んだ野菜とカットした豆腐を適当に並べて、サバを盛り付ける(塩梅を見ながらサバ缶の汁を入れてもおいしい)。そこに、混ぜた出汁をぶっかける!

冷や汁に氷

ミョウガ、紫蘇を刻んで添えるとさらに最高です。最後に、躊躇せずに氷を投入する。刻み海苔があれば、かけるとまた格別おいしい。

●自分を内側から元気にすることは大事

8月前半の酷暑は、連日冷や汁をかきこんで過ごした。火を使わずに料理できることもありがたい。毎回、具材を変えてみるのも楽しいし、同じでも飽きることないんだなあ。暑い時期に熱々ご飯って食べる気がしなかったりするし、かといって冷えたぼそぼそのご飯を食べる気はもっとしない。ざばーんと、出汁をかけるとこんなに美味しくなるのか。暑い地域に住む人達は昔からこうして美味しく体温調節をしてきたんだなあ。

この頃の異常気象に体もぐったり疲れるけれど、自分を内側から元気にする方法を知っていくと大人になったなあと思う。手軽においしいものを食べて気持ちを上げ、体を元気に保ち、機嫌よく過ごす。どんなことより、それが自分と長く付き合う上で大事なことだ。
それにしても、サバ缶って本当にいい仕事するよねえ。災害時の非常食としてストックしていたサバ缶を、このタイミングで食べてしまって、また新しいものと交換するのも夏の恒例になってきた。
残りの夏を楽しみながら、秋の準備にとりかかる8月だ。

【高橋久美子さん】

1982年、愛媛県生まれ。作家・作詞家。最新刊で初の小説集『

ぐるり』(筑摩書房)が発売。旅エッセイ集『旅を栖とす』(KADOKAWA)ほか、詩画集『今夜 凶暴だから わたし』(ちいさいミシマ社)、絵本『あしたが きらいな うさぎ』(マイクロマガジン社)。主な著書にエッセイ集「いっぴき」(ちくま文庫)、など。翻訳絵本「おかあさんはね」(マイクロマガジン社)で、ようちえん絵本大賞受賞。原田知世、大原櫻子、ももいろクローバーZなどアーティストへの歌詞提供も多数。公式HP:んふふのふ