TwitterやInstagramで一枚一枚丹精込めてつくった葉っぱ切り絵を発表している、葉っぱ切り絵アーティストのリトさん。その作品は国内外から注目を集め、個展で販売される作品は即完売するほどです。

微笑む男性
リト@葉っぱ切り絵さん
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作品集『いつでも君のそばにいる 小さなちいさな優しい世界』(講談社刊)の出版に続き、各地で個展を開くなど、今最も注目されている葉っぱ切り絵アーティストのリトさんは、どのようにして今の成功への道筋を見つけたのでしょうか。振り返っていただきました。

葉っぱ切り絵アーティスト・リトさん。ADHDの診断から考えた人生とは?

リトさんは、仕事がうまくいかず悩んだ末、ADHD(注意欠如・多動症)という発達障害の診断を受けたことを機にサラリーマンを辞めることを決意。退職後は「リト@ADHD」のアカウント名で発達障害の日々をつづるTwitterを開設。フォロワー数がある程度増えてきたところで内容をアートへと転向し、やがて葉っぱ切り絵の世界に開眼します。

●葉っぱアートがダメなら、もうあとがない

「切り絵アートに限界を感じていた頃、『切り絵 種類』で検索して見つけたのが、葉っぱ切り絵というアートでした。海外の作品を見て、その素晴らしさに感動。早速、葉っぱを拾ってきて2~3時間かけて作成し、その日の夜、SNSに投稿。第一作目は、自分の中では20点の不出来で、それが悔しくて、すぐに2作目をつくりました」

葉っぱ切り絵
リト@葉っぱ切り絵さんの初めての“葉っぱ切り絵”の作品

毎日葉っぱを拾ってきては数時間かけて作品に没頭する。そして1日1作品ずつSNSにUP。しかし反響はイマイチで、一向に日の目を見ないまま8か月が経とうとしていました。リトさんは当時の心境を「苦しかった」と振り返りつつ、それでも手を止めなかった理由をこう語ります。

8か月間日の目を見ないと、さすがにダメなんじゃないかという気持ちになってきますよね。とはいえ、現実は貯金ゼロ、失業手当もあと数か月でもらえなくなる。タイムリミットが迫りくるなか、なんでもいいから前へ前へと動いていないと不安で仕方なかったし、皆が働いている8時間は自分も没頭してなにかをやらないと、自分が情けなくて自己嫌悪に陥ってしまう。SNSでバズる方法を調べる、とにかく葉っぱ切り絵だけは続ける、など、できることを全部やることで、気持ちを安定させていたんです」

そんな折、葉っぱ切り絵の伝え方を変えてみたところ、思わぬ方向に――。

「それまでは自分がつくりたいモチーフをつくり、その工程や自分なりに考えていたストーリーを140文字ぎっしり説明していました。でも、もしかしたら説明は不要なんじゃないか? とふと思って抜いてみたんです。そうなると、タイトルと一目見た印象で作品のストーリーを分かってもらわないといけないので、シンプルなデザインにガラっと方向転換をしました」

葉っぱ切り絵カメレオン
『いつでも君のそばにいる』(講談社)より引用

「その結果、徐々に反響が出てきたんです。見る人が一枚の葉っぱに自分なりのストーリーを投影して、入り込めるようになったのでしょう。人が何人もいる絵だったら、友達同士、家族など、それぞれが想像した内容をコメントに書いてくれる。たとえば、僕は母のつもりで表現していても、人によっては父だと解釈していたりする。それなら個々が自分の立場で見られるように、性別や関係性などもぼかした方がいいことに気づいたんです」

葉っぱの切り絵クマさんたち
『いつでも君のそばにいる』(講談社)より引用

そしてもう一つ変えたのは、「技術で評価されたい」という気持ち。「見ている人に純粋に楽しんでもらえる作品を心掛けるようにしたら、どんどん注目されるようになりました」とリトさんは語ってくれました。そうしてブレイクしたのが、初著書『いつでも君のそばにいる』(講談社刊)の表紙になった「葉っぱのアクアリウム」。

本
著書『いつでも君のそばにいる』(講談社刊)

一気に3万件ほど「いいね!」がつき、翌日にはフォロワー数が4倍に。伝え方や視点を変えるだけでこれほど伸びるということに気づいたそうです。以来、フォロワー数はうなぎのぼり。みるみるうちに、国内だけでなく海外からも人気が出たそうです。

●今の世界にとどまるか、抜け出すか

リトさんは、「結果的に、継続して作品をつくっていたことが今につながりました。しつこくやり続けるといつかどこかで花が開く。葉っぱ切り絵を諦めないでよかった」と強調します。と同時に、サラリーマンからアートの世界に転身したことも、運が開けた第一歩だったそう。

「僕はサラリーマン時代、ケアレスミスばかりするダメ人間だと思い込んでいました。だけど今思うと、自分自身がダメだったのではなく、その場所が僕に致命的に合っていなかっただけ。それに気づいて、活動する場所を変えたら、うまくいった。僕はもともと才能があったわけではないし、アートについても修業をしたり学校に行って勉強をしてきたわけではない」

インタビューに答える男性

「だから、今何かに苦しんでいる人も、そこだけが自分の生きる場所ではないと気づいてほしい。人間、ダメな部分を直そうとしますが、直せないものもある。僕自身でいえばADHDの特徴である『忘れ物をしやすい』といったクセは根本的には治らないと思うんです。それよりは、普段当たり前にできているところ、『私はできないけどあなたはできてすごいね』と言われるところを伸ばして尖らせていった方がいい。そういうところほど意外にも強みだったりするんです。

現に、僕自身ハローワークの中しか仕事の選択肢はないと思っていましたが、こうして競争相手の少ない世界で仕事を見つけ、生計を立てられています。現状が辛くてもそのまま立ち止まっている人は多いですが、自分が動くことで初めて見える景色もある。動かないと、その世界は永遠に見えてきません

一方で、苦手な仕事をし続けて数十年という人でも、立ち止まることが正解のことも。

苦手でも仕事を続けられているなら、それは才能だと思います。僕は続けることができず逃げてしまった。だから、なんとかできているならそこにいた方がいい。苦手だと言いながらもその世界にいさせてもらえるというのは、一つの才能だと思うんです」

今、壁にぶち当たっている人に、この言葉が届きますように――。

●【リト@葉っぱ切り絵さん】

葉っぱ切り絵アーティスト。Instagram(@lito_leafart)やTwitter(@lito_leafart)に毎日のように投稿する葉っぱ切り絵が注目され、国内外のメディアで紹介。また、個展で販売される作品は、即完売する人気。その作品は近著に作品集『葉っぱ切り絵コレクション いつでも君のそばにいる 小さなちいさな優しい世界』(講談社)がある。