ともに30代前半の橋本さん夫妻。埼玉・飯能市出身の夫は、結婚前から自然栽培の農業に取り組んでいました。一方都会育ちの妻は「広い庭付き一戸建て」を夢見ていましたが、地方で暮らす不便さを案じていました。「移住」に対し、どのように夫妻は折り合ったのでしょうか。そこには信頼できる人との出会いと移住先の市のサポートがありました。

目次:

夫の思い、妻の夢、それぞれの実現を目指して大きな後押しになった、きめ細かい市のサポート環境にやさしいふたりの住まいが完成

夫の思い、妻の夢、それぞれの実現を目指して

入籍を期に、住まいのことを考え始めたという橋本さん夫妻。
「便利な場所で、広い庭付き一戸建てに暮らしたいという夢がありました」と話すのは妻の知里さんです。
同時期に夫の賢史さんは埼玉の日高市に2反(600坪)の畑を借り、作付けを開始。それが2016年のことでした。

橋本邸
すべての画像を見る(全11枚)

賢史さんは結婚前から「環境や健康によい仕事」を求めるようになり、会社員を続けながら自然栽培の農業にチャレンジしていたのです。

リビング

そこで、賢史さんの出身地である飯能市が、「農ある暮らし」を応援してくれるということで移住先の候補に挙がりました。しかし、東京の都会育ちの知里さんは車の運転に自信がないこともあって、不便な場所での暮らしは強い不安と抵抗感を覚えていたことも事実だといいます。

談話

土地探しの試行錯誤の中、飯能市内にある賢史さんの祖父母宅を改修する案も浮上しましたが、区画整理にかかり頓挫。迷走状態に陥ったとき相談相手となったのが、設計事務所SH-Space(エスエイチスペース)の柿澤哲次さんでした。
「柿澤さんの価値観に共感できるところがあり、人生観や仕事観、教育観など、コアな話をたくさんしました」(賢史さん)。

外で談話

「柿澤さんは丁寧に話を聞いてくださり、どうしたら私たちが幸せになれるのかを一緒に考えてくれました。そうした中、徐々に移住へと気持ちが定まっていったような気がします」(知里さん)。
さらに、飯能から池袋へは西武線で最短約40分。新宿・渋谷へも乗り換えなしで行けるアクセスのよさが、都心を離れたくない知里さんの気持ちを前向きにさせました。

大きな後押しになった、きめ細かい市のサポート

夫妻が利用したのは、飯能市のまちづくり推進課が行っている移住支援プログラム。家庭菜園から本格的な就農まで、「農のある暮らし」の実践を条件に移住者をバックアップする制度です。

薪

居住地や農地の斡旋、各種補助金の申請、地域に溶け込むための手助けなど、きめ細かいサポートを受けられます。

薪ストーブ

市のまちづくり推進課が紹介してくれた土地をいくつか見て回った中、遠くに青梅の山が望め、近くには小川が流れる魅力的な場所にめぐり合いました。
周囲が開けていて日当たりがよいことからここに決定。

薪ストーブ着火

飯能駅まで車で10分、スーパーまでは5分ほどと利便性もよく、知里さんも「やっていけそう」という感触を持ったといいます。

環境にやさしいふたりの住まいが完成

家づくりはもちろん、土地探しから相談していたSH-Space(エスエイチスペース)に依頼。太陽光パネル搭載でゼロエネ仕様、薪ストーブなどエネルギーを自給する、環境にやさしい家です。2018年の5月に着工し、11月に竣工しました。

キッチンからリビング

でき上がったLDK がこちらです。梁を露出させたウッディなリビングは日当たりも最高。「家ではほとんどの時間をここで過ごすので、快適な場所になってよかったですね」(賢史さん)
木のぬくもりの中にアイアンをプラスするなど、素材にもこだわりが見られます。

キッチン

キッチンは念願の対面スタイル。キッチン背面のカラークロスがアクセントになっていますね。フローリングの焦げ茶色に合うネイビーを選んだそうです。

家づくりと並行して、賢史さんは農地を2反(600坪)に広げました。会社勤めの二足のわらじを履きつつ、より真剣に自然栽培の農業に取り組んでいます。
なんと!  畑で作業をしてから、会社に出勤することもあるそうですよ。今では野菜を販売する機会も増えています。

野菜

そして知里さんは、「将来私たちに子どもが生まれたら、自然の少ない窮屈な都会より、飯能でのびのび育つほうが生きる力が育まれそう」と。地元の保育園で働くことも決まり、新生活への期待が膨らんでいます。竣工後に広い庭で、家づくりに関わったスタッフを誘ってBBQを楽しんだとか。地元の生活と自然を満喫していますね。

「近いうち、庭に野菜の苗をつくるためのビニールハウスや、作業小屋を建てたいですね。農業を軌道に乗せられれば、いずれは専業に切り替えたいと考えていますが、無理せずじっくり取り組んでいきます」と賢史さんは今後への思いを語ってくれました。

設計・施工 SH-Space(エスエイチスペース)
撮影/山川修一(扶桑社)
※情報は「住まいの設計2019年4月号」取材時のものです。