結婚後の数年間、東京都心の賃貸マンションやテラスハウスに暮らしていた鈴木さん夫妻ですが、子育てをしていく中で、長野・飯綱高原へ居を構え、引っ越す決断をしました。そのきっかけはなんだったのでしょうか?移住後のよかった点、大変な点なども含め、鈴木さん家族の高原での暮らしをお聞きしました。

目次:

長男の小学校入学を機に、東京から長野へ音楽家が暮らしていた高原の小さな山荘をリノベ人のつながりが濃い地域で、仕事も暮らしも順調!

長男の小学校入学を機に、東京から長野へ

東京で自主保育に参加して、長男をのびのび育てていた妻の洋子さんですが、公立小学校への入学に迷いを感じていたといいます。

そこで、長野市の実家から近い飯綱の私立学校を見学。

「子ども自身が考えることを大切にする学校で、子どもたちの表情がキラキラしていました。ここで子どもを学ばせたいと直感しました」。

鈴木さんの家
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突然の提案に驚いた夫の貴詞さんでしたが、見学してその考えに共感。

鈴木さんの家

東京で家賃のために働くような日々、子どもの声で近隣からひんぱんに苦情がくる環境を変えたいとも感じていました。

妻の実家が市内にあることも背中を押したといいます。

早速、地元の不動産会社2社に相談し、リノベーション前提で中古の一軒家を探します。

自分たちが魅力を感じる場所、物件をと探しましたがなかなかピンとくるものに出会えず難航したそうです。

そうしてようやく見つけたのは、長野駅から車で30分、標高1100mの飯綱高原の木立の奥に建つ、築50年以上の山荘でした。

鈴木さんの家

音楽家が暮らしていた高原の小さな山荘をリノベ

音楽家のオーナーが夏を過ごしていたというその山荘……。

「お化け屋敷と噂されるほどボロボロの状態でした。しかし、梁が家型に連続する美しい室内を見たとき『ここしかない』と感じたんです」(夫)

鈴木さんの家

大きく手を加えたのは、快適に暮らすための温熱環境。

冬の飯綱は積雪量こそ1m程度ですが、気温はマイナス15℃まで下がります。

もとの建物はほぼ無断熱だったため、屋根と壁、床に断熱材を隙間なく充填しました。

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さらに「少ないエネルギーで暮らしたい」と、なんと長男と洋子さんで小さなソーラー発電装置を自作。

これが功を奏し、クーラーいらずな気候もあって今年の夏は電気代がほとんどかからなかったといいます。

リノベーションした住まいは上下階が吹き抜けで大らかにつながっています。

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冬は薪ストーブ1台の輻射熱で、家全体がじんわり暖まるそうです。

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他には、ロフトの配置を変更。

家型に連続する梁の美しさを見せるためで、さらに視線が奥に抜けることで面積以上の広がりを感じさせます。

薪ストーブも空間に合わせて細長い形を選びました。古い梁や木材を見せるため、屋根の断熱材は屋外側に充填しました。

南側は窓を大きくし、光いっぱいの空間に。

365日ずっと自然の変化を感じられて、家にいながらキャンプをしているよう。

存在感のある既存の梁は、DIYで軽やかな白に塗装したそうです。

ロフト北側は長男のスペースに。南側は夫妻の寝室と長女のスペースに。

鈴木さんの家

傾斜する屋根が山小屋のようで、こもる雰囲気が心地よさそうです。

ロフトの一角には長男のドラムセットもあります。

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人のつながりが濃い地域で、仕事も暮らしも順調!

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移住で心配なのは仕事ですが、鈴木さん夫妻の場合はどうしたのでしょうか。

建築家として独立していた貴詞さんは、次のように話してくれました。

「ちょうど仕事がひと段落していて、動くにはいいタイミングでした。長野市はリノベーションで全国的に注目されるエリアです。界隈の人たちとつながることで設計はもちろん、街づくりなど東京では縁がなかった仕事も始まりました」。

移住後は市内のシェアオフィスに入居。そこを拠点に仕事の幅が広がったといいます。

一方、洋子さんはお菓子作家として、東京にいた頃から植物性材料を使った手作り菓子を知人に販売していました。
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移住後も人伝いでカフェに卸すことがトントン拍子に決まり、雑貨店やイベントでも販売するようになったそうです。

お菓子づくり専用の厨房は食品衛生法に準拠。

鈴木さんの家

家族の姿が見えるようガラスの間仕切りを設置しました。

通信販売も始め、リビング横の厨房で菓子づくりに励む日々です。

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プライベートキッチンは別にあり、家族で囲んで作業できる広いペニンシュラ型。吊り戸棚で収納を確保しています。

夫妻共に仕事はとても順調そうです。ところで地域活動はどんなものがあるのでしょう?

「暮らすうちにここが子どもたちのふるさとになればと思い始めました。地域活動のひとつに、この間は子どもたちを集めて鳥の巣箱をつくりました。僕が設計して、野鳥に詳しい人に鳥が来る場所を教えてもらって」と夫。

この地区は移住者が多く、面倒なルールは皆無だったそう。

「地方はコミュニティが小さいので、横のつながりが濃いのが都会と違うことのひとつ。そうした人付き合いをうまく乗りこなせれば、楽しく暮らせると思いますよ」。

薪づくりに必須のチェーンソーの使い方は、林業に携わる学校の父親仲間が教えてくれました。
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買い物はネット通販や宅配でまかなえるし、市街地まで車で30分なので不便はないとのこと。

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「悪いことは、雪や突風による倒木で予想以上に停電が多かったこと!  ソーラー発電に助けられていますね」と妻。

「暖房の熱源は薪だし、近くに湧き水もある。ライフラインが途絶えても生きていけるくらいです(笑)」。庭に出れば春は山菜、秋はキノコと食材も豊か。身の回りにあるもので工夫する豊かな暮らしが、生きる力を育みます。

兄妹もきっと大らかに、感受性豊かに育っていくことでしょう。

鈴木さんの家

もっと詳しく見たい方は、ぜひ「住まいの設計2018年12月号」を参考にしてみてくださいね。

スズケン一級建築士事務所 〒380-0831 長野県長野市東町207-1 KANEMATSU 050・5534・8688 お菓子のマド 乳製品・卵・白砂糖を使わない「体にやさしく、ちゃんとおいしいお菓子」 を販売。通信販売もあり。マクロビオティック料理教室も不定期で開催。

撮影/山田耕司(扶桑社)
※情報は「住まいの設計2018年12月」取材時のものです