最近、少ない財産で相続争いが起きてしまうケースが増えているのを知っていますか?家庭裁判所にもち込まれた遺産分割で、相続財産が1000万円以下のケースは3割以上と、じつはESSE読者にとって、相続は身近な問題なのです。「不動産は現金と違って分けるのが難しいもの。金融資産がたくさんある人よりも、自宅プラス預貯金が少しだけというケースの方が、争いに発展する危険が大きいのです」と、税理士の福田真弓さんも指摘します。
実際には、どのような相続トラブルが起きるのでしょうか。

相続トラブル
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没交渉だった長男が実家をなし崩しに相続してしまうことに

今回は、遺言を残さないまま父親が亡くなってしまった、ESSE読者・高岡真奈美さん(仮名、53歳・大阪府在住)が体験した相続エピソードをご紹介します。

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死んだ父親が残したのは、自宅とわずかな田んぼだけ。遺言書はなし。結果、父親の農作業を手伝ったり、面倒をみたりしてきたほかのきょうだいを差しおいて、生前は没交渉だった長男が、すべてを相続してしまう。

「きょうだい3人仲ようしいよ」。

そう言い残して父は旅立ちました。遺言書もなく、わざわざ分けられるほどの現金もなく残ったのは実家と荒れ放題の田んぼだけ。これを2人の兄と仲よく分けるちゅうことは現実的にはできないんやないかと思います。

それで、父の葬儀を取り仕切った長兄が、なんとなくその流れですべてを引き継ぐことになりました。分けようがないのだから仕方がないとはいえ、それはないんとちゃう?と思ったし、次兄も思ったことでしょう。

というのも私たちの母は若くして亡くなっており、その後父の家に通い、25年間面倒をみてきたのは末妹の私だったから。晩年、体が弱ってきてからは週に何度も通い、本当に大変でした。次兄も、仕事も忙しく家庭もあるのに、やれ草取りだ、やれ田植えだ、と父から呼び出され、父の農作業をずっと支え貢献してきたのです。

一方、長兄はなにもせずに、自分の好き勝手をやって生きてきました。長兄のお嫁さんは都会育ちで、たまに遊びに来ても日傘を差して農作業を眺めているような人。その2人が、父の住んでいた家を引き継ぐとは…。

それでもやりきれない思いを押し殺してきたのは、やはり父の「兄弟3人仲ようしいよ」という言葉が大きかったように思います。

いちばん気になるのはポツンと置かれた位牌

長兄は引っ越しをせず、たまに実家を訪れては別荘のように使っていますが、気になるのは両親の位牌です。普段はだれもいない家に、ポツンと置かれた位牌のことを思うだけで、胸がきゅーんと痛くなります。

私の家に引き取ろうとすると、「位牌は動かさん方がええんや」と強硬に反対。それでいて、たまに「別荘」に足を運んでも、長兄も兄嫁も手を合わせるでもなく、ご飯をお供えするでもなく、ほったらかし。きっと父は、悲しんでいるに違いありません。

<弁護士・比留田さんからのアドバイス>

位牌や仏壇、墓地、神棚、家系図など、先祖をまつるためのものを祭祀財産といい、これを受け継ぐ人を祭祀承継者といいます。

祭祀承継は遺産相続とは別のものとされているので、相続放棄をしていても、祭祀財産を承継することが可能です。位牌が気になるなら、家庭裁判所に継承者を決める調停を申し立ててみるのも手でしょう

ESSE10月号

では、こちらのほかにも、少額の遺産が招いた悲劇のエピソードと専門家のアドバイスがまとめられています。他人事だと思わず、参考にしてみてはいかがでしょうか。