新型コロナの感染拡大によって、従来通りの葬儀を行うことが難しい状況が続いています。
「しかし、状況に流されて周囲の状況を踏まえずに葬儀を行うと、のちのち後悔を残すケースも」というのは、葬儀関連サービス企業でPRを務める高田綾佳さん。
今回は、葬儀の現場でよく聞かれる声をもとに、貴子さんという方のケースを例としてご紹介していただきました。

黒スーツを着たメガネの男性
母の死を理解できない父。火葬の際に激高して…。(※写真はイメージです。以下同じ)
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コロナ禍に通夜や告別式のない「直葬」で母とお別れ。認知症の父がそれを知り…

新型コロナの流行まっただなかの2020年5月。都心部に住む50代の貴子さんは、80代の母が亡くなったと入院先の病院から連絡を受けました。
感染拡大防止の観点から病院での看取りができないまま亡くなってしまったため、認知症の進む80代の父は母の死が上手く呑み込めない様子。
葬儀社との打ち合わせもおぼつかないこともあり、貴子さんが葬儀の喪主を務めることになりました。

●コロナで親戚が参列を辞退。簡素な「直葬」で見送ることに

母と生前に交流のあったきょうだいや親戚に参列してもらおうと年賀状や電話帳を当たるうち、全員が遠方在住かつ高齢であることが頭によぎった貴子さん。10名程度に「無理のない範囲で参列をお願いしたいのですが」と連絡しました。

すると、全員から「本来であれば参列したいのだけれど、いま都心部に行くのは怖い。ごめんなさい」と参列を辞退され、参列者は貴子さんと夫、2人の子ども、父の5人だけとなりました。

母はご近所の方や友人とのつき合いがなかったので、「参列者が限られるのであれば、わざわざ大げさな葬儀をあげなくてもいいわ。お坊さんもおつき合いがないし呼ばなくていいわね」と考えた貴子さんは、父の状態や新型コロナの感染状況も考慮し、以前テレビで紹介されていた「直葬」で母を見送ることにしました。

葬儀社から詳しい説明を聞いて「通夜も告別式も行わないとなると、思った以上に寂しいお別れになる」と感じたものの、母の死を受け入れられない父に葬儀の話だなんてもってのほか。貴子さんは、父に葬儀の形式を説明せずにそのまま手配しました。

たびたび母の遺体と面会させても「お母さんは起きないね」と不思議な顔をする父に不安を抱きながら当日を迎えました。

●お坊さんのいないお別れに80代の父が激高!

棺桶を持つたくさんの人

当日、父に「お葬式だから」と黒いスーツを着せて火葬場に連れ出した貴子さん。父はやはりうまく状況が呑み込めず、ぼんやりと周囲の様子を見つめていましたが、葬儀社職員が母の遺影を火葬炉前に飾り「これが最後のお別れです」と言った瞬間、「お母さんとお別れって、どういうことだ」と動揺し始めました。

貴子さんが「お父さん、お母さんは亡くなったの。何度も言ったでしょう」と伝えると、「お葬式もしていないのに、そんなの信じられない」と激高。

「お葬式はしないのよ。だれも参列できないから」と改めて伝えたものの、「なんでお葬式をしないんだ! お坊さんはどうした。おかしいじゃないか」とまくしたて、一時は荼毘に付すどころではなくなってしまいました。

葬儀後、父は一気に老け込み、認知症が加速。よかれと思った選択によって父を傷つけてしまい、貴子さんは後悔する日々を送っています。

やり直しがきかない葬儀。家族で話し合っておくのがトラブルにならないコツ

女性の写真と奥に男性

このケース、貴子さんはどのようにすればよかったのでしょう。

【問題点】

(1) 父に心配をかけないよう相談しなかった

(2) 生前の母の希望を確認していなかった

(3) 参列者がいないからと直葬に決めた

これらの問題をクリアするには、一体どうすればよいでしょうか。

【ポイント】

(1) たとえ判断能力が落ちた家族であっても意向は聞く

両親のうち一人が亡くなった際、もう一人が認知症を患っているケースは珍しくありません。また、配偶者を亡くした後に認知症を発症する方も多いとされています。
たとえ判断能力が落ち、葬儀の喪主をお願いできる状態ではなかったとしても、故人の配偶者は一人きりです。最期に自分の手で送り出せなかったことで遺された親御さんが孤独や不安を深めてしまわないよう、葬儀をどのようにしたいか都度相談するのがよいでしょう。

(2) 心配な方の葬儀への意向は確認しておく

生前にあらかじめ葬儀の意向を確認しておくことで、判断能力が落ちた方とも「本人がそう言っていたから」と合意形成がとりやすくなります。
たびたび確認の場を設けることが「言った言わない」の行き違いを防ぐことにつながるでしょう。

(3) 参列者が少ない場合は「家族葬」「一日葬」も検討する

葬式でお花を持つ人

葬儀は、故人が生前関係を持っていた人に「亡くなりました」と知らせるほか、遺族自身が故人とのお別れを受け入れる役割も持っています。十分に手間と時間をかけて事実を受け入れることで、大切な方を失った悲しさや寂しさを軽減できるのです。

通夜も告別式も行わない「直葬」をあげた方からは「思った以上にあっけなかった」「このようなお別れでよかったのか」などの声が聞かれることもあります。

新型コロナの感染拡大状況や各ご家庭の金銭事情によっては難しいケースもあるかもしれませんが、少人数で納得のいくお別れをしたい場合、身内中心で通夜・告別式を行う「家族葬」や告別式のみを行う「一日葬」を合わせて検討することをおすすめします。

自身にとって大事な人のお別れは、だれかにとっての大事な人のお別れでもあります。また葬儀は、だれかと一緒にお別れの時間を共有することに大きな意味を持っています。

いざというとき、参列しただれもが「いいお別れの場だった」と思えるよう、身近な人たちと少しずつ葬儀の話し合いをしてみませんか?