旬の素材を使った毎日の料理や、時季ならではのおいしい食べ方をつぶやくツイッターアカウント、「きょうの140字ごはん」(

@140words_recipe

)を運営する文筆家の寿木(すずき)けいさん。

使いたいと思う食材や道具、そしてだれかへの贈り物は、四季に導かれるものだそう。
寿木さんから季節のあいさつに代えて、読者の皆さんへ「今日はこれを手に取ってみませんか?」とお誘いする連載が始まります。
2月は、家族の朝時間が温まるせいろの使い方を教えてもらいました。

冷たい床と、ふんわりとした湯気で目を覚ます

せいろ
節分過ぎ、待ってましたのせいろの出番
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●起きるのがつらい季節こそ、はだしのすゝめ

節分を過ぎ、暦の上では春。しかし、1年でいちばん寒さを実感するのがこの時期だ。

とくにつらいのが、朝。
すっきり起きるコツのひとつに、皮膚温度を少しだけ下げるという方法がある。起き抜けの体は、毛布と布団にくるまれてつま先まで温かくなっている。と、そこで靴下やスリッパを履くのを少し待って、10分ほどはだしで家じゅうを歩き回ってみる。
着替えたり、乾燥機にかけておいた洗濯物を取り出したりするうちに、皮膚が刺激されて温度が下がり、それと同時に脳にはエンジンがかかる。人が本来もっている「皮膚温度と深部体温の差が縮まると眠くなる」という性質を逆手にとり、皮膚温度と深部体温の差を広げるのだ。『

スタンフォード式 最高の睡眠

』(西野精治著/サンマーク出版)のなかに見つけた養生訓のようなものだ。

もともと寝起きは悪くないほうで、起床後5分以内にはもういろんなことをし始めているタイプではあるけれど、この季節だけは別。はだしでうろうろ起床法を実践してからは、わりと安定して元気に過ごせている。ただし、頭も体も働き始めたら、冷えすぎないようにちゃんと靴下を履くこと。

●冷凍パンが、せいろでよみがえる

2月の朝の台所は、乾ききって、つんと冷たい結界を一本張り巡らせたような緊張感がある。こんなとき、私は決まってヤットコ鍋に水をはり、湯を沸かす。そこにせいろをのせて、もうもうと湯気が立つのを待つ。起きる、鍋に湯をはる、火にかける。このアクションが3点でセットになっているのだ。

蒸すのは、パン。しかも凍ったままのもの。いただきものの甘いパンや、撮影時のスタッフの軽食の余りもの、それから、家でひとりで軽食をとった際の残りを密閉袋に入れて冷凍してあるから、それらをまとめて蒸す。レストランで食べきれなかったバゲットなんかも、私はお店の人にお願いして持ち帰らせてもらう。紙ナプキンにくるんでバッグにポン、だ。

●さまざま種類のパンを盛り合わせて

たくさんのパン
ベーグルはもちもちした触感が復活。チョコチップ入りのパンは、ちょうどいい具合にチョコが溶け、パンに染みておいしいものです。

この日蒸したのは、どれもいつかの食事で余ってしまったべーグルやバターロールなど。凍ったままのものを、蒸気が立つせいろに入れて2~3分蒸すだけ。大きなものは、凍ったたまま包丁を入れれば、つぶれずきれいに切れる。いろんな種類のパンが盛り合わせになっていて、いつもの朝ごはんとは少し趣が変わり、子どもたちも「今日の朝ごはん、なになに?」と珍しそうにのぞいている。

蒸したあと、どこに乗せるかにもひと工夫を。試行錯誤の末にたどりついたのが、ザル。パンの湿気がこもらず、水分が1か所に偏ってべとっと重くならないまま、蒸したてのホカホカを味わうことができる。

●レシピを考える前に、とりあえず蒸す

ちなみに、もう1段のせいろでは、ニンジンでもサトイモでもなんでも、根菜を蒸しておく。私の本『

いつものごはんは、きほんの10品あればいい

』(小学館)でもご紹介した「10分仕込み」を朝すませてしまおうというわけだ。
とくに、皮をむくのが面倒なサトイモは、泥をよく洗って皮つきのまま蒸しておけば、使いたいときに素手でつるんと皮をむくことができて便利。ひとまずレシピのことは考えないで、サトイモがあったら蒸しましょう。皮をむいたあと、軽く手で握りつぶして、温めた豆乳でみそを溶いたスープをかければ、包丁いらずの汁物が完成する。

ニンジンのサラダ

ニンジンは、蒸したての熱いうちにフォークでつぶして、粗熱が取れたら塩コショウ。ツナとマヨネーズを加えてもいいし、おかかやチーズを混ぜても乙な味。この日は、おかかとひきわり納豆、マヨネーズ少々を加えてサラダにしてみた。

●しぼんだ肌にも、湯気が効く

蒸し板
せいろは横浜中華街に遊びに行ったときに手に入れた『照宝』の21センチを愛用しています。アジャスターも一緒に購入。いろんなサイズの鍋にせいろをのせることができて便利

せいろをもっていないという方は、新しい食器を1枚買うのをがまんして、ぜひお店にせいろを見に行ってほしい。部屋の空気もうるおうし、なにより、せいろと湯気の組み合わせというのは、温かみのある優しい景色を生む。蒸すためにせいろを必要としているというよりも、せいろでなにか蒸したいから、蒸せそうな食材を探すといったほうがいいくらい。
いつものご飯とみそ汁の朝食も、それから、トースターで柴犬色に焼いたトーストも最高だけど、たまには、冷凍庫の在庫一掃の「蒸しパン」モーニングをぜひ。

ちなみに、湯気に顔を近づけながら(やけどにはくれぐれもご注意ください)、スチームを利用してスキンケアをすることもある。両手をうちわ代わりにして、湯気を頬のほうへ送り集める。2月の湿気は料理によし、部屋の乾燥対策によし、肌にもよし、三拍子そろった宝なのだ。

【寿木けい(すずきけい)】

富山県出身。文筆家、家庭料理人。著書に『

いつものごはんは、きほんの10品あればいい』(小学館刊)など。最新刊は、初めての書き下ろし随筆集『閨と厨』(CCCメディアハウス刊)。趣味は読書。好物はカキとマティーニ。 ツイッター:きょうの140字ごはん(@140words_recipe) ウェブサイト:keisuzuki.info