普段なかなか本を読む時間がない人も年末年始の休みこそゆっくり読書をしたい…。そう考えている人も多いのではないでしょうか。

芥川賞小説家であり、大の読書家として知られる又吉直樹さんに、年末年始におすすめの本や読書習慣を語っていただきました。

又吉さん
移動時などで5~10分でも時間があいたら本を開くという又吉さん
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「多様な視点を受け入れられるようになる」のが読書の魅力

●ときと場所を選ばないのが本のよさ。同じ本をなん度も読むことも

新作『人間』を発表するなど小説家として活躍する一方で、「読書は食事や睡眠と同じような日常の一部。本を読まない日はない」と語るほどの読書家でもある又吉直樹さんに、本との向き合い方を聞きました。テレビでは観ない日がないほど売れっ子の芸人でもある又吉さん。忙しい日々のなか、どのようなタイミングに本を読んでいるのでしょうか。

「世の中にはいろんなエンタメがありますが、本のよさは場所も時間も選ばず、自分のタイミングで読み始められて、読み終われること。個人的には最初と最後の50ページは集中して一気に読みたいのですが、それ以外の部分は、コマぎれで読んでも楽しめる。移動時
などで5~10分でも時間があいたら、本を開いていますね」

読みたい本を選ぶときは、書店に行ったり、人からのおすすめを聞いたりとさまざま。ときには、同じ本をなん度も読むことも多いとか。そんな又吉さんが考える、読書の魅力とは?

「だれかが長年培ってきた考えや知識を吸収し、発展させられることです。たとえばとある人の話を聞いていて、『あ、これはあの本のなかで書いてあった考えの7割しか到達してないな』と気づくことがあるんです。どんな優秀な人でも人間ひとりの力には限りがあるし、とある研究を人の手も借りずに自分だけでやったとしたら、それで人生が終わってしまう。だから、先人たちが残した知識を本から吸収し、さらにそれを土台にして自分なりに考える。それだけで、人生がすごく立体的になって、楽しくなると思うんです」

●価値観が違う人間から学べることも多い

そして、本を読むことのもうひとつの楽しみは、多様な視点を受け入れられるようになる点だとか。

「昨今は、『共感しました』が最高のほめ言葉になっていますが、共感だけを求めて本を選ぶのはもったいない。もちろん、読書には自分が普段から感じている言語化できない言葉に出会い、共感するおもしろさもあります。でも、自分と全然違う考え方や発想を提示してくれて、自分の視点が増えていくのも、読書の楽しみのひとつじゃないかなと思いますね。それによって、いろんな人間がいるんだって学べます」

●失敗した人間に石を投げつける世界はいらない

本を持つ又吉さん

人には多様な視点がある…。日常ではつい忘れてしまいがちな多様性を教えてくれる作品のひとつが、又吉さんの3作目となる長編小説『人間』です。「年末年始にぜひ読んでほしい」という本書の読みどころについて聞いてみました。

「人間って失敗するし、転ぶものだと思っています。その後、周囲がどう支えるかがすごく大事であって、失敗したやつにみんなが石を投げるような世界には、僕はしたくない。だから『人間』では、世界の怖さや人間同士の摩擦などを見せつつ、そのしんどさを経験した先になにがあるのか。そして、人々がどう生きていくのかを描きたいと思ったんです」

作品中では、いわゆる“ステレオタイプ”ではない人々の様子が痛いほどリアルに描かれていきます。

「『女性はこうあるべき』『主婦はこうあるべき』と、『人間はこうあるべき』というものに当てはまらない人々ってけっこうな数で存在すると思う。でも多くの場合、彼らは“いないこと”にされている。そんな人たちに『その場所にいてもいいんやで』と作品を通じて伝えられたらうれしいです」

ESSE1月号

では、「年末年始に読みたい本」特集として、又吉さんがおすすめする3冊の本を紹介。さらにESSE連載陣によるおすすめ本も紹介しています。
年末年始の帰省時や家でゆっくり過ごすときのおともとして、ぜひ参考にしてみてください。

【又吉直樹さん】

1980年生まれ。お笑いコンビ・ピースとして活動。小説『火花』でデビューし、芥川賞を受賞。新刊『人間』(毎日新聞出版刊)は初の長編小説として執筆。同書は38歳の誕生日に届いた知らせを発端に、過去を思い出す主人公の永山。シェアハウスで芸術家を目指す若者たちと暮らす青春時代から、大人になった現在まで、なに者かになろうとしていた若者たちの「その後」を描いた大作