文筆家の藤岡みなみさんが挑戦したのは、「所持品ゼロの状態から1日1つだけものを増やして100日間生活をする」こと。 このチャレンジでは、「これがないと無理」と思っていた家電や道具が、じつはなくても平気だったことに気づいたといいます。「電子レンジを手放したら残りものが減り、炊飯器がなくてもご飯はおいしく炊けました」。「持たない」ことで見えてきた、暮らしの軽やかさと道具とのちょうどいい距離感について、藤岡さんが語ります。

家電
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電子レンジはなくてもいい

フライパンで調理中の女性

必需品だと思っていたのに、なければないでまったく問題なかったものの1つが電子レンジだ。

根菜を調理前にやわらかくしたり、冷凍食品や残りものを温めたり、普段は毎日幾度となく使ってきた。でも正しい調理法を知れば、野菜をやわらかくすることはそう難しいことではなかったし、じつはフライパンで調理した方がおいしい冷凍食品もたくさんあった。残りものは鍋で温めればいいだけ。

しかしここで問題が。残りものを温めることでその鍋を洗う手間がひとつ増える。たった1つでも、その1つが面倒。だから最終的にどうなったかというと、残りもの自体が自然と減っていった。

なるべくその日に食べてしまったり、ちょうどいい分量だけつくることにしたり。残りものがないと冷蔵庫がかなりすっきりするし、ラップも使わなくてよくなる。

電子レンジをなくすことで思った以上に多くのよい影響があった。電子レンジのバタフライエフェクトと呼ぶことにする。

※ バタフライエフェクト…些細なことが様々な要因を引き起こしたあとに、大きな事象の引き金につながることがあるという予測不可能な現象のたとえ

おたまは1つあれば十分。すべてのものはだいたいそう

シンプルライフに挑戦する前は、おたまを8つも持っていた。どんどん買いたしていったという実感もなく、生きていたら自然と集まっていたのだ。そんなわけないんだけど、そんな感覚だ。

おたまが8つもあれば引き出しはいつも大混雑で、ガッと引っかかっていらいらすることもしばしば。ほとんどなにも持っていないところからスタートしてついにおたまを手に入れたよき、なんて便利なんだ! と思った。そうそう、この角度で、この量の汁を! すくいたかった! かゆいところに手が届く喜びに思わず目を見開く。

おたまを8つ持っていたときには、皮肉なことにおたま本来のすばらしさを忘れていた。ああ、ありがとう。こんな便利なもの、1つ使わせていただければ十分。1つしかないからこそ愛せるし、1つしかないからこそよさを忘れずにいられる。