暮らしについての著書を数多く出版しているエッセイスト松浦弥太郎さんは、現在58歳。50代になったころから、漠然とした不安を感じるようになったそうです。そんな不安に向き合いながら、いまの自分の基本について考えた『松浦弥太郎のきほん』(扶桑社刊)が好評発売中です。松浦さん流の「50代からの楽しみ方」とは? スペシャルインタビューをお届けします。

松浦弥太郎さん
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松浦弥太郎さんの、50代からの人生を楽しむヒント

――歳を重ねても人生を楽しむためには?

過去でも未来でもなく、今日が大切。いまこの瞬間を楽しむこと。好奇心を持って、新しい体験をいっぱいすることかな。

自分にとっての真の情報は、経験からしか生まれないんです。自分の目で確かめたり、触ったり、体験する。そういうものが僕にとってなにより大事。毎日新しい経験をしていると、日々話すことがいっぱいあります。

逆に経験が少ないと、「過去が宝物」になっちゃう。そうすると、気づいたら過去の同じ話ばかりしてしまう。そうはなりたくないんです。

小さなころから、食事は楽しい時間

『松浦弥太郎のきほん』より
『松浦弥太郎のきほん』より

――食を大事にされていますが、それは昔からですか?

食事って、気持ちのリセットにもなりますよね。食事がいつも楽しい記憶だったのは、子どもの頃の両親のおかげかもしれません。小さいとき、家族が食事の前には叱らないということは意識してくれていたように思います。ごはんの前に両親がいがみ合ったりもしない。そうするとごはんがおいしくなくなる。別れ話しながらごはん食べるとか最悪でしょ。味がしないっていうか。そういうことはしたくないな。

そして、不安や辛いことや嫌なことがあっても、ごはんを食べるときだけは忘れられる。だから食事の時間はとても大事。それはひとりで食べるときも、だれかと食べるときも。

食というのは、未来の自分のために、食材に感謝して、1日3度の自分の心と体の栄養を養うものと思います。

『松浦弥太郎のきほん』より
『松浦弥太郎のきほん』より

――食事のときに意識されていることはありますか?

しゃべりながら食べるのがあんまり好きじゃないんですよ。食べているときは静かでいたい。食べ終わってから余韻を楽しみつつ話をする。

ひとつのことに集中しているときは、ひとつに集中している。だから、スマホを見ながらとか、テレビを見ながらとか、なにかしながら食事はしないです。

松浦さん

――「ながら」ってついついしがちなんですよね。

僕は基本的に「ながら」はしない。でも、唯一する「ながら」があって、それが「ながら感謝」です。食事しながら感謝している、インタビューを受けながら感謝している、歯を磨きながら今日もありがとうと。

――情報があふれる世の中で、時間がたりないと感じることはありませんか?

そこまでしてやりたいことがないから、僕は時間がたりないとは思わないです。追われてないから。

いろんなものが便利になって、調べ物も、検索すればすぐ答えが出るし、その分時間を得している。その得した時間、ぼんやりすればいいのに、それを別のことに使おうとするから忙しくなる。

うちはテレビもないし、今は新聞も取ってない。外的な情報はできるだけ遮断しています。世の中には情報が多すぎて、意識的に情報を遮断しないと、自分が思考する環境をつくれないからです。

大事なニュースは人が教えてくれるから、なににもしなくても入ってくるもの。僕にとって必要なニュースはほかにたくさんあるから。知らなくても僕の人生に影響しない情報は入れないようにしています。

――人づき合いも多そうですが、心がけていることはありますか?

「人と群れない」こと。知り合いは多いし、仲間も多いけど、僕は常にひとりです。それだけは注意しています。会食も3人まで。

70、80歳になったときに、「だれかいないと生きられない」だと寂しいですよね。