ペットの柴犬の写真をツイッターに投稿し続け、その自然体のかわいさが人気となっている

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。ESSEonlineでは、飼い主で写真家の北田瑞絵さんが、「犬」と家族の日々をつづっていきます。
第9回は、犬と家族それぞれの、微妙に違う甘え方のこと。

すべての犬にかけられる言葉が「good boy」「good girl」でありますように

座っている犬の体をなでていたら、少しずつ体勢を崩していってごろぉんと横になった。お股全開の仰向けになると、無防備にのどとおなかを見せている。

おなかを見せている
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太陽を浴びた草の匂いがする毛なみをなでていたら、体を擦り寄せてくる仕草をみせるので「甘えられているなぁ」と思うときもあるのだが、そんなときは同時に私が犬に甘やかされているという感覚を抱く。

テレビで、「犬と見つめ合ったときに人間の体内のオキシトシンが3倍以上に増加する」というのを見た。確かに私もまるで荒地のようになっている精神状態が、犬と触れ合うなかで平たく整地されていくようなことが多々ある。

この距離感がいい

「この距離感がいいよねぇ」妹がそう笑った。彼女が帰宅するときに犬が嬉々として迎えにいく様子は本回覧板でもたびたびお伝えしてきたが、家に着いてからも続きがある。

犬は近くにいたいのか、妹が手洗いや着替えをすますまで黒々とした瞳でじっと追いかけている。だけど妹が準備万端! いざ犬との時間! と駆け寄れば、犬はサッと離れて絶妙な距離をとるのだ。

頬や背中をなで
妹一進すれば、犬一退し

妹はその間合いから頬や背中をなでていて、犬はそっぽを向いているのだがなでる手が止まれば小突いて促したり、3mmにじり寄ったりと催促してくるのだ。それが妹にはたまらなくツボらしい。
犬にとって照れなのか、遊びか、妹が笑うので習慣化したのかわからないが、二人の距離感はそのままにコミュニケーションは続く。

東京に滞在したとき
胸をはってなでられる

用事が重なって5日間ほど東京に滞在したときのことだ。

出発の何日も前から犬に予定を伝えていたけれど、わかっているのかは判断できなかった。出発の日、朝の散歩に行ってきてから犬はどことなく落ち着きがなくて、話を聞いていたのかそのとき察したのか、これから私が出かけるとわかっているように思えた。

私一人が出かけても家のなかは心配いらないので、ただ私自身の気持ちの問題だが、行き先が遠くても日帰りでもどんな予定であっても、犬を見ていたら出かけるのをやめたいって軽率に思う。
それでも自分を鼓舞して支度をはじめたら、腰元に少しの隙間もなく寄り添うようにくっついてきて、座り込んでしまった。私やっておりたいよー。

犬シックは悪化
撮影者 母

めったにほかの犬の動画を見ないけれど、東京にいるときに、海外で人と犬が再会して喜び合っている動画を見ていたら、犬が「good boy」と声をかけられながら何度も頭をなでられていた。
すべての犬にかけられる言葉はできるだけ「good boy」「good girl」であってほしいと心底思った、そしてホームシックならぬ犬シックは悪化。

帰宅の儀として、犬が鼻腔をいっぱいに広げて私の顔中のにおいを嗅ぐという行為がある。
犬は、私の顔、とくに目元の匂いを嗅いできて、瞼に鼻を寄せてゼロ距離でふんふんふん…と鼻息を荒げるのだ。睫毛に降りかかる鼻息、犬に目を委ねる。

睫毛に降りかかる鼻息、犬に目を委ねる
甘え方の引き出しが微妙に違って見える
ネーブル

犬は家族一人一人に対して、甘え方の引き出しが微妙に違って見える。
母の場合だと、よく足がつかまえられている。いつも母が立ったまま電話で話しているときは、犬が足に抱きついていて、なかなか不安定な体勢だと思うのだが、母の足から離れようとしない。

ふたりの性格を表しているようにやわらかい

また、母の腕の中に犬がいることもある。いつかの夜、テレビを見る母とその膝の上でまどろむ犬の姿を見つけた。ふたりが一体化していると錯覚するほどのフィット感があった。犬と母の間に流れる時間は、ふたりの性格を表しているようにやわらかい。

犬と母の間に流れる時間
ひとつの山のように見えた
犬の存在はありがたい

夜遅くに仕事から帰ってきた兄が、自室に向かおうとするあとを追いかけていく犬に「なんや」とぶっきらぼうな言葉をかけているが、すぐに歩み寄る足とその声色から、喜んでいることはお見通しだ。兄も犬に心を整地されているのかなんて勝手に思っている。荒地では作物を育てることも難しいのだから、犬の存在はありがたい。

犬は家族のなかでだれよりも甘えたで、家族をだれよりも甘やかしている。いつだってgood boyだ。

家族をだれよりも甘やかしている

【写真・文/北田瑞絵】

1991年和歌山生まれ。バンタンデザイン研究所大阪校フォトグラファー専攻卒業。「一枚皮だからな、我々は。」で、塩竈フォトフェスティバル大賞を受賞。愛犬の写真を投稿するアカウント@inubotを運営