1964年に第1号となる物件が竣工した秀和レジデンスは、独特の南欧風な外観で人気のマンションです。秀和レジデンスが大好きで実際に購入し、リノベーションして暮らした経験のある者のひとり、谷島香奈子さんに詳しくお話を聞きました。
すべての画像を見る(全7枚)Q1 本の売れ行き、どうですか?
A.ありがたいことに、発売して1週間で重版になりました。発売前からツイッターをはじめとしたSNSでの反響も多く、不動産や建築関係者の方、秀和にお住まいの方などにも手に取っていただけたようです。
秀和で設計に携わっていた方から、本を読みましたというお電話をいただいたことも。私たちの伝えたかったことがきちんと伝わったんだな、とうれしくなりました。
Q2 Twitterでバズったページがあるそうですが…。
A.秀和の特徴のひとつである独特の質感の壁、「ラフウォール」はさまざまな模様のバリエーションがあって、マニアを虜(とりこ)にするディテールのひとつです。
同じ模様の壁はひとつもなく、「荒々しい」「ぎっしり」「すっきり」など、いろいろなパターンの壁を見比べられるページもあるので、ぜひじっくり見てほしいです。こちらのページはとくに反響が大きく、ツイッターなどSNSでもたくさん拡散されました。
ただ、数十年前に施工されているため、実際どのようにつくられたのかは謎が多いんです。そこで、共著者のhacoさんが左官職人の方にお願いして、どうやって「ラフウォール」がつくられたかを考察、図解したページもつくりました。
Q3 谷島さんの好きな秀和ディテールは?
A.たくさんありますが、やっぱりタイル、ラフウォール、金物がベスト3。カラフルなタイルは、オリジナルがきれいな状態で残っているとテンションが上がります! レジデンスごとに異なる配色や貼り方を探すのも楽しいんです。
ラフウォールは質感と、自由な発想のデザインが魅力。防犯と装飾を兼ねた「面格子」や、アプローチの大きなアーチなどの金物は外からでも見られますし、本当にいろいろなモチーフのものがあるので、見飽きません。
また、「秀和ブルー」と呼ばれる屋根用のオリジナルカラーの塗料があり、その背景を詳しく取材したページもありますので、ぜひ読んでほしいです。
Q4 谷島さんの好きな秀和を5つ教えて!
数ある秀和のなかでも、とくに谷島さんがお気に入りのレジデンスを5つ、挙げてもらいました。
●秀和参宮橋レジデンス
1968年 渋谷区。住民の方たちが秀和のよさを大切にしていて、可能な限りオリジナルに近い形で補修をしている、ということを取材を通じて知り「愛されている秀和だな」って感じました。
●秀和青南レジデンス
1968年 港区。ステンドグラス、タイル、シャンデリア、赤いカーペットなどなど、秀和の「かわいい」ディテールがぎゅっと凝縮されていて、お城のような世界観がしっかりとつくり込まれています。
●秀和桜丘レジデンス
1970年 渋谷区。建物は小ぶりですが、ステンドグラスやアイアンの面格子など、秀和らしいディテールがちりばめられています。春になると桜がとてもきれいで、「住んでみたい」と思ってしまいます。
●秀和恵比寿レジデンス
1970年 目黒区。建物の魅力を維持しながら、コミュニティもしっかりと運営されています。「開かれた理事会」を目指していて、修繕などについて活発に話し合われているのがとてもいいなと思いました。
●秀和外苑レジデンス
1967年 渋谷区。ブルーの屋根にモコモコのラフウォールを取り入れた最初の物件。錨モチーフのアイアンも印象的です。秀和の原点ともいうべき建物なので、とてもいとおしく感じてしまいます。
Q5 制作過程で大変だったこと、苦労したことは?
A.取材・撮影の許可をいただくのが大変でしたね。各レジデンスの管理組合の理事長さん宛に、まずお手紙を出すところからスタートしました。
本のコンセプトに共感してくださる理事長さんも多く、貴重なお話を聞かせていただいたり、美しいステンドグラスや照明などの撮影をさせていただいたり、ご協力いただき、感謝しています。
もうひとつ大変だったのは、たとえば植栽の美しい時期に撮影をするなど、よりよいものをつくりたくて、制作期間が長くなってしまったこと(笑)。1年とちょっとかかりました。