作家・作詞家として活躍する高橋久美子さんによる暮らしのエッセー。
今回は、この時季ならではの「梅しごと」について、つづってくれました。

第48回「今年も梅の季節がやってきた!!」

すべての画像を見る(全9枚)

●長年、この季節は梅干しを漬けてきた

梅の実に爪楊枝で穴をあけながら雨音を聴く夜。「梅雨」とは風景の見える美しい言葉だ。
そこに梅の落ちている限り、私はどこへでも拾いに行ってしまう大の梅好きなんだけれど、梅ならなんでもいいというわけでもない。梅は完熟に限る。梅シロップや焼酎漬けには時間をかけてエキスが出る青梅がいいが、梅干しには、がぜん完熟の黄色い梅が美味しい。香りがいいし、とろっとした舌触りや甘み、それに水分をよく含んだ完熟梅は、塩をしてもすぐに梅酢があがるので、その分少ない塩で漬けることができる。

梅干し

実家にいる頃から長年母と梅干しを漬けてきた。青梅だと15%は塩をしないと水が上がらなくてカビが生えたりするが、完熟梅は10%の塩で2日重しをしておくと梅酢が上がってくる。梅酢さえ上がってくれば腐る心配はない。売られている梅干しに「塩分7%」と書かれているものもあるけれど、その分旨味調味料とか砂糖とか保存料が入っている。甘い梅干しも嫌いじゃないけど、やっぱりシンプルなのが好きだ。経験上、塩だけでつける梅干しの塩の限界は9〜10%なんじゃないかと思う。

漬けている様子

東京で暮らして15年、どんどん実家にいる頃のような生活に戻っていく不思議。

近所の神社に、ピンポン玉大の特大の実が成る梅の大木があって、近隣の人が朝に夕に取りに来る。ここの梅は昔から自由に取っていいのだそうで、みんな神様の梅を楽しみにしている。

私は完熟ねらいなので、毎日落ちているのをせっせと拾いに行き、青いのは焼酎やブランデーに、黄色いのは梅干しにする。

去年の神社の梅干しがいい塩梅。この塩梅という言葉も梅の塩加減から来ているが、これがびっくりするほどおいしく漬かった。皮が薄く中はとろとろ、つま先からぎゅーっとなる酸味、梅の芳醇な香り。私史上最高級の梅干しができた。

そういえば夏は昔から毎日梅干しを食べている。それにこの原稿を書きながら去年の梅シロップを炭酸割りで飲んでいる。夏は梅が生活の中心に躍り出てくる。

●ご近所を散策して梅探し。大量ゲットして「梅屋敷」に

この前、梅神社の辺りを散歩していたら、くんくん。こっちからも梅の香り。あらら、どなたかの家の芝生の上にごろごろと無数の梅が転がっている。南高梅じゃないか。私にはそれが宝石に見えてしまう。ほしい。落ちているなら欲しいです。お尻の赤い、芳しいこの梅を食べてみたくてしょうがない。こういう時の私のど根性はすごい。

「あのう、この梅ってもう漬けないですか?」
と家の人に聞いてみる。
「ああ、どうぞ良かったらもっていってください」

やったー! 大量に完熟の南高梅をもらうことができた。

完熟の南高梅

思ったとおり皮が薄くて水分を多く含んでいるので、塩につけてもなんと9%でなみなみと梅酢が上がってきた。

伯方の塩、粗塩、藻塩、ゲランドの塩、焼塩、塩も何種類も試して実験。あまりに粗い塩は溶けなくてカビが生えてしまった。シロップ漬けも氷砂糖、黒糖、グラニュー糖、キビ糖、はちみつ…やりたい放題。こうなると、もう台所はデパートの物産展である。かごというかご、ボウルというボウルは梅の山。ほうろうの鍋は全て梅干しがしこまれている(金属の鍋やボウルは梅酢で成分が溶け出すのでNG)。

「久美子から梅子に改名しなよ」と、帰ってきた夫が笑っている。