作家・作詞家として活躍する高橋久美子さんによる暮らしのエッセー。
今回は、久美子さんの実家の農家でも採れる、旬の夏ミカンのおいしい食べ方についてつづってくれました。

第47回「夏ミカンをシンプルにおいしく」

暮らしっく
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●小さな頃から好きだった夏ミカンの最高の食べ方

最近、子どもの頃に食べていたシンプルなおやつをよく食べる。前に紹介した小麦粉と牛乳と卵で作るホットケーキも昔からの方法だし、この時季は、夏ミカンをむいて、砂糖をかけて冷蔵庫で冷やしただけの究極にシンプルなおやつにはまっている。

小学校から汗だくで帰ってきたら、大きなバットになみなみと薄皮をむいた夏ミカンが入っていた。溶けた砂糖がみかんに染み込んで酸味と調和して本当においしく、すーっと暑さが引いた。食べるは一瞬、むくのは一手間。母がせっせと房からむいてくれていたのだと思うと、あれはシンプルでいて手間のかかるおやつだったのだ。

夏ミカン3つ

半月ほど前、母から野菜が届き、ダンボールの底に夏ミカンがゴロゴロ入っていた。今年3回目の夏ミカン様…。温州ミカンだと小さいからバクバク食べるが、夏ミカンはでかいし酸っぱいし皮をむくのも大変だし、なかなか減らない。母と電話していると「あれやってみたら? お母さん今も毎日やっとるよ」と。今度は孫たちのために毎日むいているんだなあ。

私も、あれが食べたくなって、夜寝る前に黙々と薄皮をむいた。すぐ食べたいのを我慢してお皿にためていく。そして、レモン色の美しい果実の山に、砂糖を…あ、徳島で買っておいた、とっておきの和三盆糖があるじゃないか! こういうときの大人の贅沢だ。キメの細かい和三盆糖をさらさらとかけて、少し混ぜると冷蔵庫へ。翌朝の私へ目覚めのご褒美だ。

お皿にむいたミカン

朝、夏ミカンが楽しみで早く目を覚ました。冷たすぎるのが苦手なので、少し常温に戻してから口へ。うわ~。これこれ。シンプルなのに体に染み渡るおいしさよ。あっという間に一皿平らげた。こんなの毎日食べたい。

ということで、夜むいておいて朝食べるというのを毎日やっている。全然飽きない。朝食べても胃もたれしないし、体が目覚めるんだよなあ。

ここにヨーグルトを入れて、簡単な朝ごはんにするのもいいけれど、まずはそのままで食べるのがオススメです。

夏ミカンというと、皮をマーマレードやピールにしないといけないという強迫観念にかられる。去年はたくさん作ったのだ。でも、それは根気も時間もいることなので、気が向いたらでよしにしようじゃないか。今年はやらないぞ。それよりも、旬のおいしさを、そのままにいただけばその方がいいじゃないか。

●酸味が強い夏ミカンはサラダにもぴったり

サラダ

さて、夏ミカンのシンプルで美味しいおすすめの食べ方がもう一つある。それは、サラダ。なんと言ってもこの酸味なんですよ、夏ミカンは。

果実の4分の1は、柑橘酢として絞って使う。そこに、オリーブオイル小さじ2、バルサミコ酢小さじ3、塩少々、ゴマを入れて混ぜる。

レタスやタマネギスライス、パクチー、トマト、モッツアレラチーズなど、好きな野菜に、夏ミカンの薄皮をむいたものを、適当な大きさに手でちぎってサラダを作り、先程のドレッシングと合わせる。ポイントは、大きめのボールの中で、サラダとドレッシングをよく絡ませてから器に盛り付けること。そして、夏ミカンは大きめにちぎること。

夏ミカンは、砂糖で甘くしてデザートにもなれば、酸と塩気でサラダにもなる、優れた果実だ。愛媛県の柑橘農家で育った私にとって、初夏を代表する柑橘だったが、最近は甘い柑橘に押されて、夏ミカンの木は愛媛ではあまり見かけなくなった。または、品種改良された甘い夏ミカンが人気になったりもして、マーマレードを作りたいけどなかなか酸っぱい夏ミカンが手に入らないという声も聞く。ないものねだりなのかな。

高級な柑橘に並んで、安く手に入り幅広い活躍をする夏ミカン。東京でも時々、庭に植えている方を見かけるが、取られてないことが多い。酸っぱいから食べないなんて、もったいないことを言わず試してみてほしい。今が旬の、庶民派の底力。ぜひその爽やかな酸味を楽しんでみてください。

【高橋久美子さん】

1982年、愛媛県生まれ。作家・作詞家。最新刊で初の小説集『

ぐるり

』(筑摩書房)が発売。旅エッセイ集『

旅を栖とす

』(KADOKAWA)ほか、詩画集

『今夜 凶暴だから わたし』

(ちいさいミシマ社)、絵本

『あしたが きらいな うさぎ』

(マイクロマガジン社)。主な著書にエッセイ集

「いっぴき」

(ちくま文庫)、など。翻訳絵本

「おかあさんはね」

(マイクロマガジン社)で、ようちえん絵本大賞受賞。原田知世、大原櫻子、ももいろクローバーZなどアーティストへの歌詞提供も多数。公式HP:

んふふのふ